3分の白昼夢/理路整然と優しさ

姉妹仲は悪くないのだと思う。
相容れないとすれば、姉は感情でモノを言い、わたしは理路整然とモノを言う。
彼女はそんなわたしを「冷酷だ」と言い放った。
冷酷の対義語はなんだろう。
その時は確か辞書で調べたように思う。
わたしのことを冷酷だと言ったのは彼女だけだった。
日頃は優しすぎると言われていただけに不思議だった。
では、「優しさ」はなんだろう。
それもよくわからなかった。
だから、辞書で調べたように思う。

あれから20年の時が経ち、わたしたちは中年になった。
姉はテレビに向かって「バカか。死ね」という。
わたしには、なぜ、そんなことを言うのかわからなかった。
一度、「乱暴な言葉を使うのをやめて欲しい」と言ったことがあった。
すると「ショックだ。あんたは冷たい」と、言った。
わたしには、なにが冷たいのかわからなかった。

姉には親友がいた。
しかし、彼女とは会おうとしなかった。
なぜだ、と訊くと、「わたしの傍にいたら不幸になる」と言った。
なぜだ、ともう一度訊くと、何も答えなかった。
そして、ただ、「今まで『向こうへいけ、バカ!』といって泣かしてきた。でも友達はみんな泣きながら寄ってくる」
と、半ば自慢げに言った。

わたしにはすべてが見えた気がした。
なぜわたしを冷酷だと言ったのか、彼女がなにを望んでいたのか。
いや、望まなければならなかったのか。
今になって、わかった気がした。
頬に涙が伝った。
それを見た姉は口ごもり、「あんたは優しい」と、言った。

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