3分の白昼夢/ポジティブで四面楚歌
誰もがポジティブを望む。
「嬉しい」とか「楽しい」とか「ありがとう」とか。
言葉には言霊があるからだ。
それなら「苦しい」とか「ツライ」とか「無理」とか、その感情はどこをさ迷うのだろう。
本音がネガティブだとしたら、本音は誰に踏みにじられるのだろう。
僕だろうか。僕が僕を踏みにじるのだろうか。
そうだろうか。
ポジティブに囲まれ、ポジティブに虐げられたネガティブは、今際の際に追いやられ、四面楚歌だ。
だからこそ、僕が救い出さなければ。
このままだとポジティブという「悪」が、ネガティブに侵食し、死へと追いやる。
孤立無援。
偽りの言霊が悪霊のようにつきまとう。
「大丈夫」「大丈夫」
僕は「大丈夫」だといいながら半ば降参していた。
ポジティブな言葉にはパワーがある。本音を地獄へと踏みにじるほど。
助けなければ。今のうちに。
豪雨のように降り注ぐ言霊のただ中に立ち尽くし、眩しいほどの輝きに耐えながら、僕は、言う。
「無理だから」
「できない、苦しい、怖い、大丈夫じゃない」
「耐えられない。僕には、これ以上、無理だ!」
ポジティブな言霊が口をつぐんだ。それは、言霊ですらなくなったのかもしれない。
辺りは凍りついた。
静寂がさらに息を潜め、僕を見る。
誰もいなかった。
温もりもなかった。
だけど、僕の中には僕を守れたんだという誇りだけが、微かに残った。
サポートをしていただけると嬉しいです。サポートしていただいた資金は資料集めや執筆活動資金にさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。