二十九/レージフリーク
「アンドラ・ドマーニ。グラツィエ」
片足でドアを閉めながら電話を切った響は、ソファに荷物を放り出し「よし」と、一言呟いた。
路面電車の音が僅かに漏れるリビング。古式の窓に広がる夕焼けがやけに味わい深い。物も少なく最小限の家具だけが置かれた殺風景なここに、ソファだけが強烈な存在感を示し、彼の生活価値観を主張する。
ミラノに移住して三ヶ月が経とうとしていた。日本との往復も半ば落ち着き、新たな繋がりを求めて飛び回る日々だ。
その一方で、拓也から聞いたエターナル・ブラックの無期限休止。麗次は今頃どうしているのかと、そのことが気がかりでならなかった。
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