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<魔女>と呼ばれる孤独な治療者マヤ。 ゴーストと見紛う<傷>を宿した男レン。 そして、<…
マヤは両手からアゴラナイドを滑り落とした。背丈ほどの茎が床を跳ね、放射状に散らばる。 …
「離して……!」 こめかみに重苦しい痛みを感じながら、マヤの意識はいたずらに目覚めた。…
モリは薄汚れた絨毯の上に横たわるマヤを見つめていた。 長い亜麻色の髪が扇状に広がり、…
「い、行かないで」 モリは開け放たれた扉に立ち塞がり、呆然と呼吸を止めたマヤに懇願した…
「クロエ!」 男は煤けた薔薇のアーチを抜け、夜露に冷えた雑草を踏みしめた。吹きさらしの…
紅い月が消えた。 朝靄が月の塔を覆い、漆黒の帳を水平線から巻き上げて行く。 マヤは日射しのない螺旋階段を下り、何層にも折り重なる小部屋をくまなく回った。 彼らはどうやって生活してきたのか。そんな疑問が湧くほど閑散としたここは、荒れ果てた巣穴と相違ない。 彼女は一晩中、震えるモリと寄り添った。 「クロエは紅と黒の月が好き……」 マヤの肩に頬を寄せ、少年は謎めいた言葉を囁いた。 「駄目だよ、マヤ。クロエに会っちゃ。悪魔だからね。喰われるよ」 ──悪魔─
モリは水を張った桶を並べ、かき集めた布でぎこちなく床を拭いていた。 「何をしている」 …
「おまえは召使いにでもなるつもりか」 肘掛椅子に凭れたレンは、パンと野草を濾したスープ…
ランタンの明かりが灯る小部屋にマヤは居た。 天井が低く穴倉さながらの壁に、年季をにお…
その日は早朝から湿気を含む陰鬱とした風が吹いていた。それが原因なのだろうか。塔を覆う空…
モリは塔を囲む石のコンコースを歩いていた。潮風に朽ちた石の壁。その岩肌に触れるたび、ご…
レンは組んだ膝にリュートを乗せていた。広間の窓際に座り、手持ち無沙汰に弦を爪弾く姿は、…
「おまえはおれに何を呑ませた」 怪訝に目を眇めたレンは、膝の上からリュートを下ろした。 「まるで魔薬のように……意識が別の場所にある。気付けばこうして口を開いた。おれが語っているんじゃない。別のおれが、彼方から見下ろしているようだ」 蘇る記憶に不当な仕打ちを感じ、唇の端を小刻みに噛み始めた。 「毒蛇の一部とスタフィサグランの種子。いずれも行き場をなくした魂を浄化するものよ。でもこれは単なる始まり。あなたの変化に合わせて調合も変えていくわ」 マヤは嬉々とした笑み