【知財塾】知財1年生が中間応答ゼミIT-電気(2021年1月開講)を受講してみた件について
1.はじめに
知財塾の中間応答ゼミ(電気・IT系)を受講した鷲見と申します。
とある特許事務所でIT・ソフトウェア・ビジネスモデルを中心に、国内の権利化業務を担当している弁理士です。
受講当時、私は、新卒で特許事務所に入って1年目で、登録したての弁理士でした。しかも、担当した仕事が先輩弁理士の指導のもとでの国内明細書の作成しかやったことがないという、かなり珍しい業務経験を持っていました(一般には、特許事務所で最初に任される業務は、人が書いた新規案件の中間対応や翻訳などが多いと言われています)。
そのため、実は中間対応のイメージをつけて、現状の経験値でも少しでもいいものを作りたいという一心で、中間応答ゼミの受講を決めました。
別の決め手は、ファシリテーターが誰かという点でした。
私が受講した中間応答ゼミのファシリテーターは、特許業務法人IPXの奥村弁理士でした。実は、私は明細書作成ゼミも受講しており、そのときのファシリテーターが奥村弁理士でしたので、明細書作成と一貫したフィードバックを受けられる絶好のチャンスと思い、即受講申込みをしました。
2.ゼミの全体像
ゼミの受講者は、私を含めて3人でした。扱う事例は主に進歩性欠如に対する応答案を意見書・手続補正書という形にまとめる、ということを最終ゴールとして、2-3回で1つの事例を完成させ、計5つの事例を扱いました。
IT・ソフトウェア系が主でしたが、それ以外にも、おもちゃのような日用品からビジネスモデル、果ては一見難しそうな物理アルゴリズムのような案件まで、幅広いジャンルを扱うことができました。
初回は、予習として演習問題シートというものを解き、問題を通じて、中間応答に必要な部分を抽出するということをしました。審査基準を注意深く読んだことのない未経験者向けの配慮がありがたい…。
ゼミでは、大きく分けて以下の3つのステップで事例を取り扱いました。
単に拒絶理由の内容を検討しておしまい、ではなく、クライアントにどう伝えると満足度が高いか、その内容を応答書面というフォーマルな形にどのように落とし込むか、までフィードバックしてもらえました。
3.ゼミの詳細
次に、上記各ステップの詳細をお伝えします。
3.1.ステップ1:拒絶理由の内容の検討の詳細
ステップ1-1:構成の整理
まず、知財塾側で用意された、一致点・相違点整理シートを使って、次のステップ2で必要な情報を整理します。
ステップ1-2:拒絶理由の妥当性の検討
つぎに、ステップ1-1で整理した内容を、審査官の検討フローに沿って検討し、審査官の認定が妥当か否か、妥当な場合はどこで差異を主張するか、などの反論ポイント探しをします。
具体的には、以下の通りです。
審査基準に忠実に沿って検討するという基本を学ぶことができます。基本に忠実ですが、引用文献からどのように課題を認定し直すか、作用機能をどこから抽出するか、どのように阻害要因を見つけ出すか、などを、実際の公報のなかから探し出す過程が非常にためになりました。
また、他のゼミ生と同じ案件を扱うので、自分が持っていない着眼点を他の人から学ぶことができました。
単に一人で学ぶだけでなく、他の人からも刺激を受けられるのが、知財塾のゼミの特徴です。
3.2.ステップ2:クライアントへのコメントの作成
ステップ1で探し出した反論ポイントを、クライアントに伝えるステップです。ここに一番の気づきがありました。
知財業界は文章でものを伝えることを得意とする人が多く、私も例に漏れずそのタイプでした。最初の事例では長ったらしい文章だけのコメントを書き、意見書とほぼ変わらないものになってしまっていました。
一方、奥村弁理士は、クライアントへのコメントを「プレゼン資料」と表現しており、タイトル付け、色、対比表、インデント、図面など、様々な方法で「ひと目でわかる」コメントを作り、いかにクライアントの負担を減らすか、という点を重視されていました。疑義が生じないように正確に伝えるべきだと考えていた当時の私には、目からウロコでした。
また、応答案もできれば3つ用意して、クライアントが選べるようにする、など、クライアントが納得できるように様々な配慮がなされていました。2回目、3回目と事例を重ねるごとに自分でも工夫をしつつ、他の人の工夫を取り入れることで、自分でもどんどんコメントの内容が洗練されていくのを感じることができました。
3.3.ステップ3:意見書、補正書の作成
最後に、作成したコメントの内容をブラッシュアップした上で、意見書・補正書の作成に移ります。
コメントの段階で補正案を記載しているため、注力する内容は意見書が主でした。
意見書は、クライアントへのコメントとは異なり、審査官へのプレゼン資料ということで、以下の流れを意識して記載することを学びました。
審査基準通りではありますが、実際に手を動かしてみると「どのような言葉を使うと審査官に伝わりやすいか」「どのような言葉を使うと権利化後に不利にならないか」などといった、様々な疑問が出てきます。
頭でわかったつもりで、コメントとして形にしていてもなお、意見書としてまとめることの難しさを感じることができました。
4.受講してよかったこと
受講してよかったことは、以下の通りです。
・審査基準の内容を実務で活用するメソッドの獲得
審査基準を読むだけだと、進歩性の判断手法は知っているつもりでも、それをどう実務に活用すればいいのかさっぱりでした。
しかし、実際の案件を読み込んで、検討して、議論して、フィードバックを受けるという一連のプロセスを経験することで、その活用方法の片鱗を身につけることができました。ここで得られたメソッドは、今明細書を書くときにもめちゃくちゃ役に立っています。
・書類を作成する目的意識の獲得
上述したように、コメントは「クライアントへのプレゼン資料」である一方、意見書は「審査官へのプレゼン資料」であり、同じ内容でも相手によって伝え方を変えるべきということを改めて学ぶことができました。
当初は文字のみのコメントだった私でしたが、最終的には構成の対比表や文字の強調、果ては引例図面に図形を付けて「ここが違う!」みたいなアノテーションみたいなものまで付けていました。
今の自分が最初のコメントを読むと「全くイケてない」と感じることができる程度には成長できました。
・他の人の思考プロセスや創意工夫に触れられること
一般に、知財業務、特に特許事務所での実務は、1つの案件が1人の担当者で完結します。同じ案件を複数人で検討する機会は、チェックを受ける身でなくなったらまずありません。そのため、実務の進め方がガラパゴス化しやすい懸念があります。
しかし、中間応答ゼミでは、ファシリテーターの考えだけでなく、他のゼミ生の成果物やその内容の議論を通じて、同じ案件でも自分が気が付かなかった観点に触れることができます。
未経験者が勉強する、というだけでなく、経験者の学び直しの場としても有用かもしれないとも思いました。
5.中間応答ゼミは、こんな人にオススメ!
中間応答ゼミは、以下のような人にオススメだと思います。
(1) 事務所勤務の新人実務担当者(例えば私)
事務所に勤務すると、普通は中間応答から始まります。指導される先輩が忙しいとなかなか時間をとってフィードバックを受けられないこともあります。そのような場合に、実際の事例を通じて色々と試行錯誤できる中間応答ゼミは、実務に使う思考回路を養う場として最適な場だと思います。
(2) 企業知財の方
ゼミ自体は事務所からクライアントに提案する、というスタンスでしたが、逆に言えば、事務所での検討スタンスを学ぶことができる場でもあります。ここで学んだ内容は、事務所の実務担当者とのコミュニケーションや、納品物の品質チェックなど、様々な場面で活用できると思われます。
(3) 特許事務所での実務に興味がある業界外の方
私が弁理士試験の勉強をしている頃、知財とはあまり関係のないキャリアの方も以外と多く、特許事務所で弁理士として働くことを目指している方もいました。
ただ、特許事務所での仕事は「明細書などの出願書類」や「意見書/補正書などの応答書類」など、特殊な書類を作成する業務です。そのため、それなりに向き不向きのある業種でもあります。中間応答は、特許事務所に勤務したら最初にやる可能性の高い業務です。
そのため、特許事務所での実務に興味を持った段階で受講することで、弁理士になったのにあまり業務に向いていなかった、というミスマッチを減らすことができるのではないかと思っております。
なお、当然、これら以外の人にもオススメできる内容です。
6.まとめ
知財塾のゼミは、個人からするとそれなりの額ではあるので、最初は清水の舞台から飛び降りる気持ちで受講しましたが、実際に受けてみたら、こんなに安くていいのかと思うぐらい充実した内容でした。
現在の私は、事業戦略ゼミや商標権利化ゼミなど、様々なゼミを渡り歩いているヘビーユーザーですが、どれも金額に対して安すぎると感じるぐらい満足いく内容ばかりです。迷っている場合は、受講してみることをオススメします。
現在、中間応答ゼミは機械、電気・IT、化学、バイオなど、技術分野ごとに深掘りした内容を学ぶことができるカリキュラムになっています。私が受講したものは色々な分野を広く浅くだったので、今のカリキュラムも魅力的だなぁと感じるばかりです。
ちょうど現在(2022/06/25)、知財塾では、中間応答ゼミ(化学)のゼミ生を募集中です。
特にこれから知財に携わりたいという方は、思い切って受講してみるのも手だと思います。