貝殻磨きの思い出

大人になってからの趣味は前に書いたが、今日は幼き頃の趣味を書こう。果たして趣味と呼べるのかは謎だが。

私が幼稚園の頃の趣味は「貝磨き」だった。海水浴か、海の近くに行った時に買ったものなのか出所ははっきりしないが、みかんが入っているようなアミアミネットに入った貝殻を持っていた。帆立サイズの平貝や渦巻き貝など、今となっては名前もわからない貝殻達。それをアライグマよろしく洗うのが好きだった。

幼少の頃住んでいたボロ屋の洗濯機は屋外にあった。家の横に吹いたら飛びそうなトタン屋根の小屋、いや、入口側にドアもなかったので小屋とも言えない、三方のトタン壁とトタン屋根がついた物置き的な代物の中に洗濯機と自転車と犬小屋があった。洗濯機も今のような全自動ではなかったような気がするが、記憶が定かではない。その洗濯機に使用する洗濯洗剤は、今のような液体ではなく粉であった。その粉を一握り分取り出し、歯ブラシとバケツの水で貝を磨く。貝は売り物であったので全く汚れていない。なのになんでそれを磨こうと思ったのか、大人になった私は思い出せない。貝を磨くぐらいなら皿洗いや靴を洗えばいいのに、なぜか貝を一心不乱に磨く子供だった。

濡らした歯ブラシに、洗濯石鹸粉をつけ、シャカシャカ磨くのだ。一個一個磨き上げる過程が楽しかった。綺麗に乾かしたあとは、その貝で遊ぶわけでもなくまたアミアミネットにしまう。自分の幼い頃なので、何がそんなに楽しかったのか覚えていてもいいはずなのに、楽しかったという思いだけ覚えていて、どこがどう楽しかったのか全く覚えていないのが悔しい。

ほかにも、近所の子供達とゴム跳びにハマったり、その他名前もないような遊びに熱中して、帰りが遅くなりよく母親に叱られた。「夢中」と言う言葉がぴったりの遊び方だった。

東京で子育てをした私は、息子が同じような遊び方をするのかと思っていたが、幼い子が子供達だけで遊ぶことはほぼなかった。交通量が多い、治安が田舎ほど良くない、公園のような場所も少ない。色々な理由で、必ず大人の目が届くところで息子達は遊んだ。小学校になれば、放課後校庭が解放されて、その時間だけ子供を見てくれる大人(先生ではない、学校なのか区なのかが雇っている人達)がいる所で遊んだ。私達が幼少の頃にあった子供だけの世界はなかった。

ゲームやネット、サブスクでアニメを見れる子供達には、「貝を磨く」などという遊びは思いつきもしないのだろう。可哀想な気もするが、時代の流れと言われればそうかもしれない。

何かに夢中になっていたあの頃はもう帰ってはこないけれど、この先あんなに夢中になれる物に逢えるだろうか。他人から見たらくだらないことでも、何かこうぎゅっとそれだけしか考えないようなものに逢えるといいなと思う。


※イラストお借りしました。pim55kokokaraさん、ありがとうございます。

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