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千由昔話〜英会話習得への道〜⑦

ボートでの生活は案外良かった。寝ている時も当たり前だが水の音が聞こえ揺れる。これが心地いい。ミニキッチンとミニ冷蔵庫は不便だったが、人間慣れるもんだ。暇な時はボートから釣り糸を垂らしたりした。たまにビーバーが泳いでいるのにも遭遇する。

彼のお兄さんの家でチェスに没頭したり、彼の仕事に着いて行ったり気ままに過ごしているうちに3ヶ月は過ぎた。カナダに滞在したいがビザもお金もない。致し方なく帰国を決めたが、彼氏と別れることができず日本で8ヶ月働いた後、再度観光ビザでカナダに来ることを決めた。

今から思うとお金持ちでもない年上の彼氏に惹かれたのは、彼の中に父親を感じたからかもしれない。所謂ファザコン。父親のような包容力のある人だったので、幼少の頃得られなかった安心感を彼から得ようとしていた。

8ヶ月日本で働いた後、またボート生活に戻ったが、それは長く続かなかった。

実は、ワーキングホリデービザ中に一度浮気をされた。相手は元カノだった。浮気男は許せないのだが、未練がどうしても断ち切れずあの時は泣いてすがった。私の人生で泣いてすがった経験は後にも先にもあの時だけである。

私が日本に戻っている8ヶ月の間に、もしかしたらまた浮気をしていたのかもしれない。カナダに帰って1ヶ月も経たないうちに、またもや同じ元カノと関係を持っていることが発覚した。2回目は我慢できなかった。

しかし住んでいるのは彼のボート。すっぱり切るまでに次の住処を見つけなければならない。

前と同じように掲示板にお世話になった。見つけたのは、ルームシェアのお家だった。日本人の女の子と彼氏の台湾人の子が住んでおり、2LDKの一室を借りることができた。

別れようと決めて次の住処を探している時、ある男の子から遊ぼうと連絡が入った。その子はマリーナの店のバイトの男の子だった。年は私よりぐっと若かったが、浮気をされた腹いせの気分もあり出かける事にした。

食事をして映画を見た後に告白された。実はお店に出入りしている時から気になっていた。今の彼氏と別れるなら僕と付き合ってくれというではないか。お店に出入りしている時によくからかってきたりしていたが、まさかの小学生スタイルの意思表示だったらしい。そんなこと全く考えたことがなかったけれど、失恋を癒すのは次の恋やん?と、今彼ときっぱり切れていないのにかぶる形でOKした。

だれやー尻軽言うたやつ!

あ、うん、ま、軽かったよね。

というわけで、次の住処も彼氏も見つかったので、そのことを彼氏に話し別れようと言った。そしたらなんと泣き出した。



は?



いやいや、お前が浮気したからやん?しかも2回も。

私に新しい彼氏が出来たのが酷く心をえぐったらしい。その時の私の気持ちは、




ざまぁ
浮気される気持ちがわかったかっ
この馬鹿タレがっ



だった。前回泣いてすがったので、また許されると思ったのだろう。別れを決めた女は強いし、冷たい。

泣いている彼氏を残し、ばいならーと次の住処に引っ越した。

ルームシェアはとても楽しかった。台湾人の子はお爺ちゃんが日本語を喋れるらしく、ペラペラではないものの日本語を話した。3人でハマったのが、あの頃流行っていた「神様もう少しだけ」という金城武と深キョンのドラマを、例のお店からビデオを借りて鑑賞することだった。台湾人の子が日本語を全部理解できないので、途中で説明しながら見た。

日本での放送からカナダのお店に並ぶまではタイムラグがあり、最後の数話は待ち切れず母に頼んで録画されたビデオを送ってもらってまで見た。

あの頃はエイズは恐ろしい病気で有効な治療法もなかったんやでぇ。

新しい彼氏といるより、ルームシェア友と遊んでいる時の方がはるかに楽しかった。すでにこの恋の行方のフラグがたっていた。

2ヶ月そこに住んで、帰る前2週間だけ新しい彼氏の家にお世話になったが、そこは彼の実家だった。ベースメントに彼の部屋がありそこに滞在した。お父さんとお母さんとお姉さんも住んでいた。イギリスからの移民で、大人しいお父さんと豪快なお母さん、優しいお姉さん。全員働いていたので気楽と言えば気楽だった。

お世話になっている間に、天ぷらと五目チラシ寿司を作ったら大層喜んでくれて、お父さんは明日のお弁当に持っていくと残り物を弁当箱に詰めたりした。

2人の結婚記念日があったので、名前入りのワインをプレゼントしたらそれも喜んでくれた。

彼氏は結婚したいから、飛行機整備士の資格を取ると言い出した。資格があれば日本でも働けるかもしれないという考えだったらしい。

2週間たち日本に帰国して、元の日常が帰ってきた。2ヶ月後から整備士の学校に行くと言う彼氏は、1ヶ月後に日本に遊びにきた。うちの母にも会った。これは失敗だった。何かにつけて「あの子は男前やったなぁ」とずっと言われることになる。

カナダに帰る前日にダイヤの指輪と共にプロポーズされた。展開早すぎん?と思ったが、その時は初めてのプロポーズに浮き足立ってしまいOKした。でも彼が帰国し半年も経つと、え、無理ィ、今結婚とか無理ィとなってしまい別れを切り出した。指輪は返送した。

ご両親もお姉さんも彼氏も凄くいい人だったのに、酷い裏切りだった。そのあと今の夫と結婚するまで碌な男にしか会わなかったのは、あの時のバチが当たったと思っている。


つづく(次が最終話だよ)

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