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叡智の龍と絵描きのオオカミ(仮題)
これは
何度も何度も
ページは破かれ
消されて消されて
忘れるように
思い出さぬように
再び2人が
手を取らぬように
そんなふうに
扱われてきた物語。
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旅をしていたと言うよりは
僕は
放浪していた
翼はボロボロに破れ
鱗も剥がれ落ちて殆ど残っていない
目もあまり見えない
傷は治る様子がなく
どんどん石化していく
体が全て動かなくなるのも
そう遠くないのだろう
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この広大な宇宙で
ただのゴミと化すくらいなら
せめてどこかの惑星の
糧になろうか
新しく生まれ来る惑星の
礎となろうか
そんな事をぼんやり考えていた
だがまあ
そんな想いの結末は
わりと
アッサリと訪れる事となる
僕は
小さな小さな惑星の重力に
ヒョイと引っかかり
そのまま墜ちた
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墜ちた衝撃で
僕の体は砕け散った
1番大きく残った部位に
僕の心はかろうじて残ったが
呼吸をする力も
体を再生する力も
既に失っていた
僕はそのまま岩となった
この星の時間で
幾千年という時が経った
僕の体には 苔が生え
植物が芽吹き
虫や小動物が
ここを住処としていた
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ある時僕は
あまりのくすぐったさに
目を覚ました
耳としっぽのある生きものが
僕の岩肌に絵を描いていた
彼女は僕に
目と口を描いた
「私の事見える?」
『ググッ…』
僕は声を出した
「言葉、教えてあげるから。私の話し相手になって欲しいの。」
そう言って
彼女は僕を撫でた
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それから
毎日毎日
彼女は僕の元にやって来て
僕の岩肌に絵を描いた
不思議と
彼女が描いた目は見えるし
口は言葉を発することが出来た
一つ一つ描かれて増えていく鱗は
僕自身の生命力と化していった
僕は再び
自らの体に
魂を呼び起こす事が出来るようになった
僕は息を吹き返していた
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彼女に
沢山の言葉を教えられた僕は
彼女と話をするのが
楽しみになっていた
彼女が帰った後の夜は
植物達や虫達に
言葉を教わった
この大地にも大気にも
言葉が存在した
沢山の言葉を知ることで
僕はこの星の事を
少し理解することが出来た
この星は
沢山の魂によって
生成された星だった
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ある時
彼女が訪れない日々が続いた
雨の続く日々だった
晴れ間が訪れ
ようやく彼女も顔を見せた
再び会えた事がとても嬉しかった
もう帰らなければいいのにと
そう思った
「雷が怖かったの。酷い音が続いてたでしょ」
『…じゃあ!』
『ずっとここに居なよ』
咄嗟に僕はそう言った
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『ここには1度も雷が落ちたことはないよ。
それに お喋りしていればきっと怖さもすぐどこかに飛んで行くさ!』
「そうだね。そうかもしれないね」
彼女はフフと笑って
「そうするよ」
と言った
彼女は
僕の体にくっつけるように
小さな小屋を作った
僕は嬉しかった
ずっと彼女はここに居るんだ
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夜も昼も
彼女がそばに居るようになって
沢山の
沢山の事を話した。
彼女には
家族も仲間も居ないらしく
長いこと1人で暮らして来たのだという。
「昔は家族も仲間も居たんだよ」
そう言ったあと
彼女は急に泣き出した。
僕が話しかけるのも聞こえないのか
ずっとずっと
うずくまって泣いていた。
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この星の時間で
3日くらい
彼女は泣いていた。
でも泣き終わると
「あなたの身体にもっともっと絵を描いていい?」
唐突にそう話しかけてきた。
全く構わないから
『いいよ』と言うと
彼女は僕に生えた苔を剥がして
それを練って色を作り
作った染料で
僕に再び絵を描き始めた。
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彼女が染料を作る時の様子が
とても興味深かった。
彼女は毟った苔を磨り潰すのだが
苔は死なないのだ。
細胞は砕けて潰れて
苔とは言えぬ姿に
苔としては死んだも同じになっているのに
それは死んでいないのだ。
見た目だけが変わり
苔に宿っていた魂は
何も変わらずそのままそこに有った。
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そしてさらに
僕は
面白いものを見た。
僕の身体に
苔の染料が塗られていく瞬間
その苔と
僕の間から
いくつもの小さくて透明な卵が生まれた。
卵達は
ブワワっと空気中に舞うと
それぞれにスっと色が着く。
色が着くと
卵は割れた。
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割れたら今度は
中から
多種多様の形を持った
生命と呼ぶにはまだ未熟な者達が
生まれては
直ぐに消えていった。
彼女が僕に
苔の染料で絵を描く間
その現象は絶え間なく続いた。
こんなにあたたかい光景を見るのは
生まれて初めてだった。
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「これはあなたの子供だよ。
あなたとこの苔の子供。」
「今はまだ
生まれて消えるだけだけど
そのうちちゃんと
大きいものも生まれるようになる。
形を保てるものも
生まれるようになる。」
「まだ
この場所に
あなたの生命の匂いが足りないの。
これを続けてたら
そのうち充満するから。」
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『どうして僕に子供を?』
「1人じゃ寂しいでしょ」
『君が居るから1人じゃないよ』
「…同胞が居ないって意味だよ」
『じゃあその力で
君も子供を作ればいいじゃないか。
仲間がまた出来るよ』
「……無理なの。
自分には使えない…。」
彼女はまた少し涙ぐんだ。
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(続く!)
この作品は”産霊画”(ムスヒが)と言いまして
絵が描かれて行くとともに
物語も進行していく
千世と黒クニ(千世国)独自の絵画作品です。
その時その時で繋がった
目に見えない世界の住人から
物語を教えてもらいながら
絵を描き進めていっています。
繋がったその目には見えない世界の住人達は
なんらかの困難を抱えています。
私はその方達の解放と自由を願って描き上げていっています。
「完成画」よりも『作画課程』がとても重要な絵です。
絵を描き進めないと
物語も進みません。
のんびりですが制作していきます。
この先のお話と絵を
どうぞお楽しみに。
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