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叫ぶ詩人の会「東京聖夜」

高校生の時に見た映画「君は僕をスキになる」のテーマソングだった山下達郎のクリスマス・イブ。
「雨は夜更け過ぎに~♪・・・」

画像は、そんな曲をはじめ、自分で好きなクリスマスソングを寄せ集めたカセットテープとCD。

昔、モスバーガーでクリスマス時期に「クリスモスソング」のシングルCDがもらえたことがあった。とてもいい曲だったので、カセットテープでも聞けるようにした。そのCDジャケットを、カセットのジャケットにしている。
CDのは、包装紙の余りなどで作った。

そして、世界一暗いクリスマスソング(ドリアンさんが自分でラジオでそう言っていた)、叫ぶ詩人の会の「東京聖夜」も、この時期は必ず聞くようにしている。

叫ぶ詩人の会の「東京聖夜」を聞くと、私は「マッチ売りの少女」を思い出す。他に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」や、「人間交差点」の深刻な場面も、連想的に浮かぶ‥。

「マッチ売りの少女」‥子供の頃から知っていたあの話を大人になって聞くと、どうも辛くて辛くて・・・

おとぎ話でもなんでもない、実話なのだろう。賑やかなクリスマスイブが明けた朝、外で一人の少女が、体を小さくかがめて雪をかぶって凍死していたのだと思う。少女の前には、売り物として持っていたマッチが、全て燃えかすになっていた‥。

「マッチ売りの少女」は、その姿から拾い上げた物語なのだと思う。少女は物語にあるように穏やかに微笑んだ顔で死んでいたのだろうか・・・。
暖かい家の中で人々の賑わう夜に、一人寒さの中で死んでいった少女が、微笑みを浮かべていたという現実があって、彼女の内だけの幸福や強さに作者が胸を打たれて出来上がった物語かもしれない。

でも、少女がどんな顔で死んでいたのかはわからないけど、どうか、せめてこんな最期であって欲しい、という作者の願いで、少女が微笑んで死んだというストーリーになっているのかもしれない。




東京の東のはずれ
印刷屋の輪転機が回っている
油まみれの男が一人
今夜12時までの締切に間に合うように
ピンセットで活字を並べている
血の通わなくなった肩は重い
男は首筋に手をやり
今夜が特別な夜であったことを思い出す
男には娘が一人だけいた
生きていれば19才
生きていればケーキを買って帰るのに
娘は油で汚れた指先が嫌いだった
だから俺は今夜
指先だけはきれいにしよう
男は口の中でそうつぶやくと
輪転機から出てくるスーパーのチラシをそっとなでた
きよしこの夜 東京聖夜

東京の南 繁華街の傍
ひろし君が熱を出した
2年前に捨てられて まだ4才なのに
7回も入院しているひろし君が
またまた熱を出した
きよみちゃんが泣いている
3年前に捨てられて まだ6才なのに
背中にやけどの跡があるきよみちゃんが
ひろし君が可愛相だと泣いている
そのきよみちゃんを見て
12年前に捨てられた12才のりゅう君がなぐさめている
りゅう君は一番年上だから
いつもみんなの面倒を見る
誰かが泣きだすと心配することないよといつも言うのだ
ちなつちゃんもよしき君もななこちゃんも
しのぶちゃんもけんじ君もはるお君も
みんな今夜を楽しみにしていた
だけどひろし君の熱が下がるまで
忘れたふりをしているんだ
きよしこの夜 東京聖夜

東京のど真ん中
男が一人 凍えた地下街で震えている
欠けた茶碗にダンボール 腐ったパジャマに新聞紙
結核に皮膚病に狭心症
男の持ち物はそれだけだ
ただひとつ 思い出を除いては
なぜこんなことになってしまったのか
男にはわからない
東京大空襲のあの夜
子供を背負った妻とともに隅田川に飛び込んだ
助かったのは男一人
焼け焦げの街とともに妻と子供は消えたのさ
戦争が終わってすぐ 男は罪を犯した
それからどれだけ鉄格子をながめていたのか
男にはわからない
いったい何十年 目の前を通り過ぎる雑踏を眺めていたのか
男にはわからない
男は震えながら妻と子供の夢を見る
にこにこと笑う妻とその足元でじゃれついていた子供の夢だ
きっとあと少しで会える
きっとあと少しで会える
男は用意していたガソリンをふりかぶると
マッチで火を付けた
きよしこの夜 東京聖夜
きよしこの夜 東京聖夜

   ~ 叫ぶ詩人の会 「東京聖夜」


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