見出し画像

四丁目の子ども達~アワヤ焼き

たこやきではない
おこのみやきでもない
ひと呼んで
「アワヤやき」
回転やきくらいの大きさで
キャベツや紅ショウガ
値の張らない食材が
メリケン粉の液に混ぜこまれて
おそらく回転やきの使いまわし
と思われる鉄板に流しこまれて
こんがり焼かれて
一つ何十円だったか
安くておいしい
「アワヤやき」

あわやくんちのおばちゃんが
家の前に小さな屋台を出し
ある日 突然、子ども相手に始めた
「アワヤやき」
動物性たんぱく質ゼロ
完全ベジタブルなヘルシーフード
なのに底深い味わいのある
不思議な食べ物 
「アワヤやき」

思えば
あわやくんが転校してきたのも
ある日 突然 唐突だった
何学期の途中だったか
なんだかきりの悪い日に
ひょっこり現れた みばえのしない転校生を
わくわくもドキドキもしないで
わたしらぼんやりながめてた
どこから来たのかぐらいの説明は
あったのかなかったのか
とにかく
何を考えているのか分からない
ちょっとむくんだような色白の顔に
所在なさそうに小さな目鼻が散っている
一言でいうと
なんとなくぶわーっとした感じの少年に
みんな ちょっと気が抜けた
そう その雰囲気なんか「アワヤやき」

でも住まいを聞いたら ざわついた
学校の並びのヤマネ牛乳店の左どなり
ねえねえ・・そんなとこに家あったっけ・・・
そこんとこは角になっていて
たしか家なんかなかったはず・・・
さっそく放課後
友達と探索にいくと
問題のヤマネ牛乳店の左側壁には
廃材をつなげた薄っぺらい家のようなものが
なんとも危な気に へばりついていた
お湯かけて3分
チキンラーメンみたいな家だった

あわやくんはその家から
学校へやってきた
と思うが はっきりした記憶はない
それでも
いつの間にかなんとなく
みんな打ち解けて
男子同士 犬ころみたいに
ほたえすぎて叱られ
誰がすきだの嫌いだのと騒いでる
おませな女子たちに
たまにちょっかいかけて
逆襲され
そして いつも 
わたしら おやつは
「アワヤやき」
安くておいしい「アワヤやき」

そんなあわやくんちが ぼやを出した
なにが原因か わからんけど
壁に張り付いた即席の家は
無残に焼け焦げて 崩れかけていた
その日からあわやくんは
学校に来なくなった
あわやくんちの人たち
みんな消えた

困るがな
わやしよる
なにしでかしてくれとるねん
あわやくんちが消えた焼け跡で
近所の人たちが騒いでる
どこから来て
どこへ去ったのか
そもそもどんな人たちだったのか
誰ひとり知りもしない
知ろうともしなかったくせに
見てきたような口ぶりで
親父が前科もちだっただの
二人の娘が体を売って稼いでいただの
母親は盗んだ道具で店やってただの
腹立ちまぎれに言いたい放題
それぼんやり聞き流して
わたしら
あわやくんより
「アワヤやき」が消えたことが残念で
ちょっと涙ぐみそうになったっけ

まん丸で
ふわふわというよりぶわぶわで
メリケン粉たっぷり
ソースたっぷり
安くておいしい
アワヤやき・・・

いいなと思ったら応援しよう!