千代 之人

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季語「星月夜」

俳句ポスト365、令和6年10月19日〆切の兼題は「星月夜」です。三秋の季語とされています。 角川大歳時記には、「月のない夜空が、星明りで月夜のように明るいこと」で、「明るさは主に天の川」からきているといいます。季語の解説者は「それにしても美しい言葉」と仰っており、それには私も同感します。 新歳時記では、「よく晴れた秋の夜は星空が明るくて、まるで月夜のように思えるのをいう」とあります。さらに、「仲秋以後は天の川が天頂にかかり」特に明るいとのこと。また、本意として「明るくとも

    • 季語「色鳥」

      今回は短めに。 俳句ポスト、2024年9月19日〆切の兼題は「色鳥」です。 角川大歳時記によれば「主に秋に渡ってくる小鳥たち」とのこと。 「色鳥」の「色」は「色々(な種類の鳥)」のことだったり、「色どり(の美しい鳥が多い)」といった意味らしいです。春にやってくる鳥たちは、その「囀りが美しい」とされる一方、秋にやってくる「色鳥」たちは、「姿が美しい」とされます。 歳時記の「色鳥」の近くには、「渡り鳥」も掲載されています。(日本へ)「秋に来る冬鳥」であり、渡りの目的地がより

      • 季語「夏休み」

        季語「夏休み」(晩夏・生活の季語) 角川大歳時記(2006年版)によると「夏季の休暇」。児童・生徒・学生では、「暑さで学習効果があがらぬため、休みとし(中略)独自の過ごし方が」可能な期間。 社会人でも、盆前後、または小中高生が夏休みの時期に、まとめて休暇をもらえれば、気分は「夏休み」となるでしょう。 「夏休み」という季語は、角川の歳時記では生活の季語に振り分けられています。確かに、学業なり仕事なりの本業に勤しんでいる中の「休み」(しかもまとまった期間)です。しかも過ごし方は

        • 薄暑のこと(簡略版)

          俳句ポスト365、R6年5月19日〆切の兼題は「薄暑」です。 初夏の時候の季語。立夏頃の「やや汗ばむほどの暑さ」であり、「本格的な暑さには至らないが、額の汗を拭うほどに気温が上が」った時の暑さ。それは「軽やか」だったり、「少し疲れた」といった感情をもたらすとのこと(ここまでの鉤括弧の部分については、角川大歳時記による)。 「薄暑」の「薄」には、「薄い」、「うっすら」という意味がありますが、「肉薄」「薄暮」といった熟語では「~に迫る」という意味もあります。本格的な「暑に迫る

        季語「星月夜」

          季語「山笑う」

          1 はじめに 今回の文章は、過去に書いた「山眠る」と内容が重複する箇所があります。そちらも併せて読んでいただくと、うれしい限りです→季語「山眠る」|千代 之人 (note.com)。 2 山の擬人化季語4きょうだい 時を遡り11世紀。 中国は北宋時代、郭煕 - Wikipedia(かくき)という山水画家がいました。中国の絵画史の中の重要人物で、日本の水墨画(有名どころでは美術や歴史の教科書にも出てくる雪舟 - Wikipediaの絵など)にも、直接的でなくとも影響を与え

          季語「山笑う」

          季語「囀」

          遡ること2年前。 俳句ポストでは「百千鳥」という季語が兼題になっていたことがありました。 今回「囀」の文を書くに当たり、当時の文章と再会しましたので、よろしければ、ご覧ください→百千鳥のスタンス|千代 之人 (note.com) 「囀(り)」。 (り)と括弧書きしたのは歳時記によっては「囀」として掲載されていたり(角川大歳時記)、「囀り」として掲載されている(新歳時記)ものもあります。 歳時記の記述だけ書くと「春になると小鳥たちが繁殖期を迎える。その頃の鳴き声」(角川大歳

          季語深耕「余寒」「春寒」

          季語深耕文を書こうかってところで、パソコンの電源入れようとしてOSが立ち上がってくれない事態がありました。復元にすったもんだ、どうにかこの文章を書こてころには、予定していた日程の大半が終わっているという事態でした。 てなわけで、余寒の話でございます。今回は短くいきます。 1 「寒」 「余寒」。歳時記を開くと「暦の上では<寒が明けて>、春は迎えているものの、まだ残る<寒さ>があるという意」(角川俳句大歳時記 春:2006年版、< >部分は筆者による)とあります。 「寒が

          季語深耕「余寒」「春寒」

          季語深耕「蜜柑」

          1 五感の刺激角川大歳時記よれば、「蜜柑」とは温州蜜柑(ウンシュウミカン)を指すのが一般的らしいです。 我が家は3人家族ですが、毎年ミカンの頃となれば良く蜜柑を買います。何年前からかは、子どもの冬休みあたりに合わせて箱買いしております。そんな中から一つ持ってきました。なお、今回ご登場いただくのは長崎の「味まるみかん」です。 1-1 視覚  普通のものではなく、「訳アリ品」として売られていたもので、大体一箱300円くらい安売りされてました。 光の反射とは違い、明らかに

          季語深耕「蜜柑」

          季語深耕 セーターのこと

          1 角川大歳時記から 俳句ポスト、R5.12.19〆切の兼題は「セーター」。 角川大歳時記でこの季語を引くと、いきなり「正しくはスウェーター」と始まります。以下、引用です。 「防寒を主とした毛糸で編んだ上着(中略)前開きのものをカーディガンという。一般にセーターという時は、かぶる形のものをさす(中略)デザインや色、素材で様々に楽しめる」 何気なく読み進めれば「そんなものか」と終わるものですが、「正しくはスウェーター」などと始まっては、語源等調べたくなるところです。 2

          季語深耕 セーターのこと

          「霜」の話

          (1 放射冷却) 今回の俳句ポスト365の兼題は「霜」。 晴れた寒夜、空気中の水蒸気が放射冷却により冷え、地面や物に触れて、その表面についた氷(角川俳句大歳時記 冬「霜」より)。 何か、分かるような分からないような表記です。 「放射冷却」、これの説明ができないと霜の成り立ちは説明できないでしょう。 何年か前、ごはんを食べつつ見ていた天気予報で「放射冷却」という言葉がでてきました。で、子どもに聞かれたことがあるんです。 「天気予報で放射冷却が強まり、冷え込むとか良くいう

          「霜」の話

          季語「新酒」のこと

          1 酒にまつわる季語を見てみる  今回の俳句ポストの兼題は「新酒」です。  私が外出時に携行している俳句歳時記(角川ソフィア文庫)では、「新米で醸造した酒」と実に簡素に記述されています。    その後、「かつては収穫後の米をすぐ醸造ため、新酒は秋の季語とされた」とあります。  読み進めてページをめくると、新酒の次に記載されている季語が目に入りました。「濁酒」でした。「濁酒」の次は「猿酒」、その次は「古酒」と、四連続で酒の付く季語が出てきます。  「そういや、夏なら『冷酒』と

          季語「新酒」のこと

          季語深耕「夜長」

          1 唱歌「虫のこえ」  兼題「夜長」を目にしたとき、ふと思いました。「季語としての夜長という言葉は知らなくても、この単語そのものは知っていたな」と。  記憶を掘り下げていけば、五十路に近い自分にとっては遥か昔のこととなります。小学校の低学年の頃でしょう、40年以上前に「虫のこえ」なる歌に出会ったのは確かでした。 あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん あれ鈴虫も 鳴き出し りんりんりんりん りいんりん 秋の 夜長 を 鳴き通す ああおもしろい 虫のこえ

          季語深耕「夜長」

          季語深耕「コスモス」

          1 植物季語の呪詛 通販生活®2023年5月の審査結果発表で夏井先生が「今月のアドバイス」としてこんな文を書いておられました。なお、この回は「栗の花」が兼題でした。  「独特の臭いを取り合わせの接点とするのであれば、『栗の花』ではなく『椎の花』でも成立するのではないか。切たる思いを重ねたいのであれば、むしろ『ヒヤシンス』あたりの方が奥行ができるのではないか。そんな句も多かった」  措辞の内容に対して季語が「栗の花」がベストでない句が多かった、季語が動く句が多かったというわ

          季語深耕「コスモス」

          リビングの隅にヒーター夏は来ぬ

          お陰さまでTwitterのフォロワー数が290名となりました。本来なら300フォロー等、もっと切れの良い数字はありますが、現段階でアンケートを取ると、どれくらい皆さんがリアクションを返してくれるか試してみたくなった次第です。 折しも、YouTubeの夏井いつき先生の動画では格助詞「に」を掘り下げるシリーズを行っています。 便乗というわけではないですが、この「に」が句に及ぼす効果、下手をすれば悪さについて書いてみたくなりました。 さて、自分の句のストックには今回の題名にもし

          リビングの隅にヒーター夏は来ぬ

          季語深耕 「雷」(最終版)

          1 雷とは雷の起き方 もし、発達する雷雲を眺める機会があれば、雲が高く高く伸びていくのを見られると思います。 この雲は積乱雲と言われ、そのてっぺん辺りを仏門に入った人の頭に見立て、入道雲とも言われます。この入道雲、雲の中では上昇気流が発生しており、成長します。 この文章を書いている本日、仙台では最高気温が30℃という予報。真夏日です。地表付近で暖められた空気は軽くなり、上へ上へと昇っていきます。これが上昇気流。この時に含まれている水蒸気が雲を作ります。さて、地表が30℃

          季語深耕 「雷」(最終版)

          季語「蜘蛛」についてのあれこれ

          1 初めに 俳句ポスト365 (haikutown.jp)、2023年6月19日〆切分の季語は「蜘蛛」です。 作句を進める中、5月末日時点で、自分の句は蠅虎の描写をしてる句が多かったのです。家の庭やら職場にあるグラウンドなど、地べたを見れば巣を作らない蜘蛛がなんぼでも見れました。この一方で、立派な蜘蛛の巣を作り、その真ん中に蜘蛛がドンといる光景になかなか出会えなかった……私の生活圏では、今年の5月半ばから末まで、立派な巣を構えている蜘蛛は意外といなかったのです。会ったのは田

          季語「蜘蛛」についてのあれこれ