微生物の力で地球を救う。マイクロバイオファクトリー株式会社インタビュー
健康・医療、食品、エネルギー、化学産業などさまざまな分野で第五次産業の柱となるべく期待されているバイオテクノロジー。内閣府は2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することを目標にバイオ戦略を進めています。持続的な発展を目指し、「地球の病気を治したい」というマイクロバイオファクトリー創業者の清水氏にインタビューしました。
代表取締役 清水雅士氏
岐阜県出身。2013年東京理科大学大学院修了(工学修士)。2014年バイオマス資源から有用物質生産を行うGreen Earth Institute株式会社に入社し、研究開発および事業企画に従事。2018年同社退職後、マイクロバイオファクトリー株式会社を設立。代表取締役に就任。遺伝子組み換え微生物を活用した微生物発酵による芳香族化合物の物質生産に関する研究開発に取り組む。
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ーー起業のきっかけを教えていただけますか?
学生の頃に起業に関する授業を受けまして、「自分でビジネスをやる」ということに興味を持ったのがきっかけです。バイオ分野で起業したかったんですが、バイオってお金も時間もかかるので、まずはサラリーマンとしてGreen Earth Instituteというバイオベンチャーで働いていました。そこで今の技術のもととなるシーズに出会いまして、社会人経験も積んだことだし、これならいけるんじゃないかと思って起業しました。
2018年頃、スタートアップのブームが来ていて「この波に乗ればうまくいくんじゃないだろうか」と思っていたんですがなかなかそううまくは行きませんね(笑)。ただ研究結果については良いものが出てきているので、それをどう社会実装していくかですね。
ーーバイオといっても様々なジャンルがあると思うのですが、その中でも合成生物学に興味を持ったのはなぜだったんでしょう?
もともと大学で生物学を勉強していたんですが、その頃は医療よりの研究開発でした。医療系は研究成果を形にするまでに時間がかかりそうだなと考えていたんです。微生物であれば細胞に比べて研究結果も早く出ますし、面白いなと思ったのがまず一点ですね。二点目は、当時から地球環境の悪化が問題視されていた中で、ヒトの病気を治すのと地球の病気を治すのとを考えた時に、温暖化や環境汚染といった地球の病気を治すことをやっていった方が持続的に発展するんじゃないかなという思いもありましたね。ヒトの病気に関してはもう既に研究者がたくさんいるので、自分が今から入っても競争がすごいんじゃないかと思ったのもあります。
ーーヒドロキシチロソール*1とインジゴ*2に着目された理由は?
*1ヒドロキシチロソール:オリーブに含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化作用・抗菌作用を持つほか、接着力を持つカテコール基を含む。
*2インジゴ:植物由来の染料で、インディゴともいう。主にジーンズの染料として使われる。
まずヒドロキシチロソールに関しては、親しくしている製薬会社から「ヒドロキシチロソールを安く作ることができれば接着剤の原料になるんじゃないか」というアドバイスを起業当時からいただいていました。調べてみたところ、市場では似たような化学品は流通していませんし、バイオで作ることができれば一気に市場が取れるんじゃないかということで開発に取り組みはじめました。
インジゴに関しては最初から狙っていたわけではなくて、ヒドロキシチロソールを作る微生物を開発している段階で偶発的にできたのがインジゴを生産する菌でした。そこでアパレル業界の環境問題や市場に関する調査をしたところ、インジゴは現在石油由来で作られていますが、化石資源を使わないインジゴというのが今求められているということを知り、研究に注力し始めました。
インジゴの生産工場では発がん性のある物質を原料として化学合成しているので、労働者にたいする発がんリスクが高いという問題があるんです。あとは染色工場からの廃水によって河川の生物が死滅してしまうという問題もあります。アパレル業界の中では環境面と安全性という二つの観点から、望ましくない原料として扱われていることを知りました。
(画像提供:マイクロバイオファクトリー)
ーーヒドロキシチロソールにはどういった用途や特性があるのですか?
ヒドロキシチロソールはオリーブの中に含まれている物質なのですが、化合物単体としてはまだ使われていなくて、オリーブ抽出液として食品や化粧品に使われたりしています。あとは健康食品の素材として添加されたりもしています。
海外ではヒドロキシチロソールの機能性に着目している企業もあって、ヒドロキシチロソールだけを作って、食品や化粧品に添加しようとしているところもあります。あとは接着剤としての用途も注目されています。なのでうちとしてもそういった分野を狙っています。バイオで作ることによってコストが下げられるという点が売りになると思っています。
ーー最近さまざまな合成生物のスタートアップが出てきていますが、コア技術に関してはそこまで大きな違いはないかと思います。どのように差別化を図られていますか?
「どういった微生物を使うか」という点が差別化要素ですね。お酒の醸造に近いものがあると思います。使う酵母や培養の条件によって、いろんな風味のお酒ができますよね。例えばビールとかワインとか日本酒とか。そういった意味で、使う微生物が差別化要素の一つです。
あとは、「何の化合物を作るか」という点もあります。同じように発酵でモノを作っていくにしても、目指したい方向がペットボトルなのか染料なのか食品系の材料なのかで市場もアプローチもぜんぜん違うので、どの市場を狙うかというのも大きな差別化要素になると思っています。
微生物自体を自分たちで作るというのが大きな方向性でして、「この遺伝子とこの遺伝子を組み合わせればAという物質ができる」「別の遺伝子を入れることによってBという物質ができる」というふうに、遺伝子の最適化をどうやるかというのが合成バイオにおける技術要素ですね。
ーー将来的なビジョンはどのようなものですか?
売れそうな化合物を自分たちで見つけてきて作る方法と、企業から「こういう化合物をバイオで作ってほしい」という要望を受託して作成するのと、その二つのビジネスモデルを考えていきたいと思っています。
企業を例としていうと、注目しているのはGenomaticaですね。化学工場に近いようなこと、化学品をバイオで作るということをやっているスタートアップです。当社もそういうところを目指しているので動向はチェックしています。
Plug and Play Japanのプログラムに期待するのは、共同研究してくれるパートナーを求めているのでPoCをやりたいですね。あとは出資していただけるところも、もちろん探しています。
ーー海外展開は考えておられますか?
日本よりも海外の化学会社の方がこういったバイオに特化した出資をしていると聞いていますので、海外とも組めれば良いと思っています。インジゴに関しては、原料も作っていくんですけれども、作った染料でどういった商品を作っていくかということも考えています。そういう意味だと、ヨーロッパ系のアパレルメーカーなどと組めればベストですね。
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(カバー写真:Photo by Vlada Moscaliova)