「フェムテック」は女性だけのものじゃなく、ヘルスケアだけでもない。すべての人が関わることのできる可能性について
こんにちは!Plug and Play KyotoのChiyoです。Plug and Play Kyotoではヘルスケアに特化したスタートアップをアクセラレーションしていますが、今月は「フェムテック」と呼ばれる領域のスタートアップを紹介するイベントを開催します。未だ日本では認知度が低いフェムテックについて、シリコンバレー本社の記事を参照しつつ、日本のスタートアップをご紹介していきたいと思います。
「フェムテック」とは?
「フェムテック」という言葉は、「Female(女性)」と「Tech(テクノロジー)」とをつなげた造語です。2016年頃、月経トラッキングアプリのスタートアップClueのCEOであるIda Tin氏によって名付けられました。月経、妊娠・出産、乳がんや更年期障害など、女性の健康に特化したテクノロジー分野を指しています。「フェムテック」の主な焦点はヘルステックですが、より一般的な女性の生活の改善に向けられた幅広いテクノロジーを指して使っている場合も見られます。
「フェムテック」という言葉について
「フェムテック」という言葉が使われるようになった背景には、いまだ男性が大多数を占めるVC業界において、女性の身体にまつわるテクノロジーを男性が説明する際に、気恥ずかしさや言いづらさを感じないようにするという目的がありました。
しかしこの「フェムテック」という言葉については、様々な意見があります。「女性」という言葉をわざわざ使うことによって、「男性には関係ない」「テクノロジーは男性が標準」「妊娠・出産は女性だけの問題」という誤った認識を導く恐れがあるためです。
今回、Plug and Playでは「Femtech & Beyond」というタイトルでイベントを開催することにしました。あえて「Beyond」をつけたのはフェムテックは女性だけにとどまらず、多くの人に関係するテクノロジーであるという可能性を知っていただきたいからです。
「フェムテック」という言葉に関心を持つ方、そして「フェムテック」という言葉に疑問を持っている方、両方の方にご参加いただきたいと考えています。
*以下の本文は、Plug and Play 本社のブログを翻訳・加筆編集したものです。
“The Rise of Femtech”
https://www.plugandplaytechcenter.com/resources/rise-femtech/
“Shaping the Future of Femtech”
https://www.plugandplaytechcenter.com/resources/future-femtech-companies/
フェムテックの盛り上がり
ジェンダーの不平等に関する意識と改革が進むにつれて、女性に関する新しいヘルスケアテクノロジー市場が「フェムテック」市場としてより一般的に知られるようになりました。世界人口の49.6%は女性であり、女性に対する効率的な医療が切実に必要とされています。ホルモン、医薬品の作用機序、出産、妊娠に関して、男性と女性の身体には大きな生理学的差異が存在していることは言うまでもありません。
歴史的に、医学は男性の身体を”標準”とし、女性の身体を”標準外”とみなしてきました。 フェムテックは、ウェアラブル追跡デバイス、人工知能、アプリ、非侵襲性ハードウェアなどの新しいテクノロジーでこのような古い価値観を変え、女性の健康に対する意識改革をもたらします。
フェムテックの可能性
現在、フェムテックスタートアップは主に医療のいくつかの領域に焦点を当てています。トラッキング領域においては主に、妊婦と乳幼児ケア、家族計画、生殖能力、および月経周期などが含まれます。またバイオメディカルデバイスは侵襲的な生殖技術を扱っています。
パーソナライズウェルネスやコンシューマーヘルスが一般のデジタルヘルスケア市場における投資分野のトップ5に入っていることから、フェムテックは大きな恩恵を受けています。 フェムテックの対象となる消費者が年間に使う金額は2,000億ドルを超えます。女性の病気にかかる経済的負担が5,000億ドルを超えるのに比べると見劣りしますが、言い換えればこの金額の違いは相当な成長の余地があることを示しています。
フェムテック分野は2015年には8,000万ドルの資金しか積み上げていませんでしたが、2017年には10億ドルにまで上昇しています。このニッチ領域は、今後数年間でヘルスケアの次の最大の破壊的市場になるとみられています。費用対効果はフェムテックの最大の利点の1つとして知られてきています。たとえば、不妊治療を始めるのに必要な初期費用は約11,000ドルに達していますが、不妊治療と排卵のトラッキングは、治療開始前にその数を大幅に減らします。
フェムテックの存在はまだ一般的に、未開発の分野として認識されています。投資家がこれらのスタートアップに資金を投入していない主な理由はいくつかあげられます。 フェムテックがニッチ市場であると考える人の多くは、女性が人口の50%を占めている事実を正確には理解していません。また、VC業界は未だ男性が中心で、月経周期や性生活アプリなどのスタートアップにとってはピッチしづらい環境を作り出しています。ベンチャーキャピタリストは「女性の健康についてはよくわからない」と気まずそうに言い訳して投資に反対することもあるでしょう。研究によると、男性のCEOが女性向けのヘルステックを売り込むと、ベンチャーキャピタリストは製品が女性だけでなく両方の性別が対象になりうると考えて、より簡単に投資する傾向があるそうです。女性の性や健康についての社会的受容が高まるにつれて、このような状況は衰退し、より多くの機会につながっていくと考えられます。
日本では何が問題?
日本市場でフェムテックがアメリカほど投資を集められていない背景には、いくつかの問題があります。
1)「フェムテック=妊娠適齢期の女性のためのもの」という思い込み
「フェムテック」という言葉による弊害がまさにここにあります。フェムテックスタートアップの多くが月経トラッキングや妊娠サポートなどを目的としているために、「市場が小さい」と誤解されがちです。しかし、一口に「フェムテック」と言ってもその領域は広く、美容・健康維持から医療・ライフプランニングまで多岐にわたります。また、妊娠・出産・子育てには女性だけでなく男性や周囲のサポートも必要になってきます。フェムテックが潜在的にターゲットとする関係人口は非常に大きく、老若男女問わずすべての人が関係する市場であると言えます。
2)妊娠・出産・子育てに関する当事者意識の低さ
世界経済フォーラムから発表されるジェンダーギャップ指数ランキングにおける日本の順位の低さが毎年話題になりますが、日本社会の政治・経済界の意思決定層において未だに女性の数は半数以下であり、女性の健康やライフプランにまつわる問題が後回しにされる傾向にあります。結果としてフェムテック領域にスポットライトが当たる機会も少ないのですが、今回のイベントがこういった状況を変える一助になればと思います!
3)不十分な性教育
日本の性教育の遅れはたびたび議論されているところではありますが、消費者側に正しい性知識がないと、フェムテックの提供する価値を理解できず浸透しにくいという面があります。
また、政治や企業の意志決定層におられる方々が、性教育に関して正しい知識を持っていなかったり、ライフスタイルの変化を的確に認識していなかったりする場合、フェムテックの持つ可能性や社会的インパクトを過小評価する傾向にあります。
4)性に関するトピックに対するタブー感・パーソナルなことに関しての話しにくさ
フェムテック市場の中でも大きなウエイトを占めているのが生殖に関わるテクノロジーですが、ビジネスの世界においてこのトピックについて真正面から語られることは多くありません。性や生殖に関する話題はどうしても個人的な体験をもとに語らざるをえないためタブー感がつきまとい、語られないことによりジェンダー間の無理解につながっています。
女性だけではなく、すべての人が関わることのできる市場
上記のような課題に立ち向かうスタートアップを支援するため、Plug and Play Kyotoでは、9月8日にパートナー企業である株式会社電通と共催で、フェムテックに関するイベントを開催します。
登壇していただくスタートアップは以下の2社。
1)Varinos
Varinosは、子宮内の細菌バランス(子宮内フローラ)検査を世界で初めて実用化したスタートアップです。子宮内環境を検査することで妊娠率を向上させ、子供を授かりたいカップルの精神的肉体的負担を軽減しています。
腸内フローラ(細菌叢)については近年認知度が高まり、腸内環境を整える食品やサプリメントが多く販売されていますが、実は子宮内にもフローラが存在することが近年になってわかってきました。このフローラに善玉菌が多いと、雑菌が繁殖しにくく、妊娠しやすい環境を保ってくれます。しかし善玉菌が減少すると悪玉菌が増殖するため、不妊につながりやすく、流産や早産のリスクが高まることが報告されています。
Varinosでは、腟や子宮から採取した検体を用いて子宮内の菌の種類や割合を調べる子宮内フローラ検査を行っています。
2)ファミワン
ファミワンは「妊活コンシェルジュ」というLINEサービス提供しているスタートアップです。不妊症看護認定看護師を中心に妊活の専門家が相談や、アドバイス、情報を提供しています。また妊活相談、両立支援など従業員向けのセミナーも実施しています。
残念なことに、日本は「不妊大国」と言われるほど、妊娠・出産・子育てに対するハードルが高く、不妊に関して気軽に相談できるシステムがないのが現状です。パートナーに対するコミュニケーション方法が分からず、自分1人で悩み続けて時間だけが無駄に過ぎていくという悲しい状況に苦しむ人が多くいます。ファミワンは子供を授かりたいと考えている人が専門家に相談できるだけでなく、企業が従業員に対して福利厚生の一貫としてファミリープランニングができるようなセミナーを開催するなど、妊娠を望む人と、それをサポートする社会の両方に働きかけるアプローチを展開しています。
加えて、「日本の大企業がフェムテックにどう関わることができるのか」という観点から、株式会社島津製作所からもパネルディスカッションにご登壇いただきます。
ーーーイベント内容ーーー
・Plug and Play Japanによる事業紹介
・電通による取り組み紹介
・パネルディスカッション:電通 x 島津製作所
・スタートアップピッチ:Varinos, ファミワン
・パネルディスカッション:Plug and Play x Varinos x ファミワン
フェムテックの先にあるもの
現在、日本社会が直面している問題が少子化ですが、フェムテックはその問題を解決する大きな可能性を秘めています。不妊治療の課題を直接的に解決することはもちろん、ライフスタイルの多様性をサポートすることで労働生産性を高めたり、女性(男性も)が身体に対して正しいデータを得ることでライフプランニングに役立てたりすることが可能になります。
フェムテックの持つ大きな可能性と日本社会の抱える課題について、今回のイベントでは大企業・スタートアップ両方の視点、男性女性両方の視点からざっくばらんに語り合っていただきます。ぜひイベントにご参加ください!