静寂に浮かぶ月 下
第3章: 月の記憶と解放
彼はその後も川沿いの道を毎晩歩き続けた。彼女に再び会えるのではないかという期待を抱きながら。しかし、彼女が現れることはなかった。
ある晩、彼は橋の下で古いノートを見つけた。革張りの表紙には、月のモチーフが金色で刻まれている。それを拾い上げ、そっと開くと、中には彼女の文字と思しき手書きの文章が記されていた。
「月は記憶を映し出す鏡…。私たちが失くしたものをそっと教えてくれる。でも、それは永遠ではない。私たちがその意味に気づく時、月は役目を終える。」
ページをめくると、そこには彼女と誰かが月夜の下で微笑むスケッチが描かれていた。その絵はどこか懐かしさを感じさせたが、彼はそれが何なのか理解できなかった。ただ、彼の胸の奥にあった重いものが少しだけ軽くなった気がした。
その夜、彼は橋の上で立ち止まり、再び月を見上げた。彼女の言葉がふと甦る。
「きっと、月が教えてくれる。」
その時、彼は初めて気づいた。月は失われたものを教えるだけでなく、それを超えて新たな道を照らしてくれる存在だということを。そして、彼は彼女にもう会えないかもしれないが、彼女が残した言葉と記憶が、彼を新しい未来へ導いてくれるのだと。
夜風が吹き抜け、彼はそっと目を閉じた。月明かりの下、彼の心は静かに満たされていった。
その後、彼がその川沿いの道を歩く姿は見られなくなった。しかし、誰も知らない場所で、彼は新しい月を見つけようとしていたのだろう。
おわり
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