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月光の断片 中
第二部:月の裏側
満月の夜、僕は再び“Luna Fragment”を訪れた。今度は妙に胸騒ぎがして、足が重かった。店のドアを開けると、前回と同じように冷たい空気が体を包み込んだ。
カウンターの端には、やはりあの女性が座っていた。彼女は前と変わらぬ姿勢で、手元のグラスを見つめていた。
“来たのね。”
“ええ。”
“あのノートを見つけた場所、覚えてる?”
僕は頷いた。覚えているとも、忘れられるはずがない。
“その場所に戻りましょう。”
彼女はそう言うと、カウンターに紙幣を置き、僕を促した。店を出ると、夜の空には鮮やかな満月が浮かんでいた。彼女は迷うことなく歩き始め、僕はただその後をついていった。
場所は都心から少し離れた、山間の小さな公園だった。木々に囲まれたその場所は、まるで時が止まったかのような静けさに包まれていた。月明かりに照らされて、僕は懐かしい感覚を覚えた。
“ここだ。”
僕が言うと、彼女は足を止め、月を見上げた。
“そのノート、本当は失くしてないのよね。”
僕は驚いて彼女を見た。
“どういうことですか?”
“失くしたと自分に言い聞かせてただけ。実際には、どこかに隠したの。”
僕の心に薄暗い記憶が蘇る。確かにあのノートを手放した瞬間のことは、どこか曖昧だった。隠したのか、それとも捨てたのか、まるで霧の中にいるように記憶が不明瞭だ。
“探してみて。”
彼女の言葉に促され、僕は手元の地面を掘り返した。やがて、土の中から小さな鉄製の箱が出てきた。それを開けると、中にはあのノートがそのままの姿で入っていた。
しかし、ページをめくると、そこに書かれていたのは以前とは全く異なる内容だった。図形や文字は消え去り、代わりに奇妙なメッセージが記されていた。
“月の裏側に行け。”
僕は茫然とした。彼女が微笑む。
“さあ、これで本当の旅が始まるわ。”
彼女の言葉が終わると同時に、月光が突然強く輝き、僕たちは光の中に包まれた。
つづく
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