「秋の夜明け」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第一章:月夜の思索
秋の夜明けは静かだった。朝霧が一時街を覆い、月の光が霞んでいる。里田瑠璃(さとだるり)は店の裏手に手に立ち、軽く冷たい空気を吸い込んでいる。彼女が働く和屋「藤わら庵」は、創業80年の老舗で、店の暖簾には風情のある筆文字で「菓」の一文字が浮かんでいます。
瑠ガラスは、朝の準備に取り掛かる前にほんの少しの間だけ、こうして外の空気を感じるのが日課だ。秋の匂いが好きだった。すこし湿気を我慢した冷たい風が彼女の頬をかすめ、木々が紅葉する前のかすかな枯れ葉の匂いが鼻をくすぐる。
「ふぅ……」
彼女は小さな溜息をつくると、胸から色見本の小さなカードを取り出した。彼女は色彩コーディネーターの資格を持っており、日々の生活の中で感じた色を心のノートに記録することを習慣としている。
しかし、ここ最近、彼女の心に描かれる色はくすんでいました。数週間前、瑠璃は店長から「ふじわら庵」のメニュー開発を任された。長らく定番の和菓子にこだわり続けてきた店にとって、新作でも、店長は「今の時代のニーズに合わせて、瑠璃さんのセンスを話してくれてほしい」と言ってくれました。
彼女は光栄に感じたもの、同時に重圧に押し潰されそうだった。 「伝統を守りつつ、新しい風を吹き込む」というのは言葉で言うほど簡単ではない。現代的なエッセンスを書き直すにはどうすればいいのか。
「あの……瑠璃さん」
わざと声をかけられて振り返ると、見習いの清水くんが、ぎこちない笑顔で立っていた。 彼は今年入ったばかりの新米だが、真面目で器用な青年だ。
「どうしたの、清水くん?」
「えっと、これ……昨日お客様から頂きましたお菓子なんですけど、一緒にどうですか?」
彼が差し出したのは、小さな和菓子の包みだった。 月見団子を模した上品な一品で、表面には微かな月の模様が広がっている。 、心の中の一筋の光が差し込むのを感じた。
「ありがとう、いただきましたわ」
瑠ガラスは微笑みながら団子を手に取り、ゆっくりと口に含んだのだ。 すると、まるで目の前の世界が色づき始めたような感覚に包まれた。柚子の香り。 それは秋の夜明けにぴったりの味で、彼女の心に久しく欠けていた温もりと色彩を呼び覚ました。
この感覚を、和菓子にできないだろうか?
「ふふ……もしかしたら、もしかして」
彼女は呟き、心の中で小さく芽生えたその感覚を、大切に抱きしめるように目を閉じた。 月明かりの淡い光が、彼女の瞳に優しく輝いていた。
つづく
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よろつよ
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