「遠い味の行方」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第一章 奇妙な依頼
里田瑠璃は、28歳のシングルウーマン。色彩の資格を持ち、江戸情緒漂う和菓子屋「山猫」で働く彼女は、今日も元気いっぱいに客を迎えている。小さな気遣いを欠かさず、常連客にも温かく接する瑠璃は、職場でも評判の良い存在だった。
ある日、瑠璃の前に現れた一人の年配の男性が、彼女に特別な注文をした。「昔、ここで食べた味が忘れられなくてね…」と、懐かしそうに語るその姿に、瑠璃は心を動かされる。男性が求めているのは、亡き妻が好きだったという限定の「黒豆羊羹」。だが、その羊羹は、今ではレシピすら残っていない幻の和菓子だった。
瑠璃はその味を再現するべく、日々試行錯誤を重ねるが、なぜかどうしても満足のいく味にならない。和菓子をひとつひとつ手に取り、食べてみる度に何かが足りない感覚が残る。甘さでも食感でもなく、何か見えない要素が欠けているのだ。
試行錯誤の末、瑠璃はふと気づく。「もしかして、何か別のものを探しているのかもしれない…」と。彼女が追い求めているのは単なる味覚ではなく、彼が妻と共に感じた温かな思い出そのものだったのだ。瑠璃は考えた。味覚ではない「何か」を込めることができるのだろうかと。
つづく
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よろつよ
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