台風接近 下
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第二章:失われた手がかり
瑠璃はその言葉を聞き、頭の中で記憶を辿った。しかし、誰が訪ねてきたのか、何も思い出せない。忙しい日々の中で、多くの客が訪れるため、顔を一人ひとり覚えるのは難しかった。
「その友人の方について、もう少し教えていただけますか?」
瑠璃は冷静を装いながら女性に尋ねた。
「彼女の名前は中谷京子。27歳で、仕事はフリーランスのデザイナーです。彼女はある企画のために和菓子の色彩を研究していたと言っていました。それで、このお店に来たと…」
女性は言葉を詰まらせながら説明した。
和菓子の色彩…。その言葉に瑠璃は反応した。自分と同じように色彩に興味を持っていた人物であることが、胸に引っかかる。だが、どんなに思い出そうとしても、中谷京子という名前に覚えはなかった。
「申し訳ありませんが、その方のことは覚えていないんです。でも、もし何かお手伝いできることがあれば…」
瑠璃が言葉を紡いでいると、店の外で何かが激しく打ち付ける音がした。瞬間、店内の照明が一瞬揺れ、空気が緊張感に包まれる。
「これは…」
女性が一歩後ずさりする。外の状況は悪化しており、帰宅が危ぶまれるほどの嵐が迫っていた。だが、瑠璃はあることに気づいた。店の奥にある一つの引き出しに、見慣れない封筒が置かれている。
瑠璃は不安を押し殺し、その封筒を手に取った。中には一枚の和紙に包まれた何かが入っている。それを開けると、中からは緻密なデザインが施された小さな和菓子が現れた。
「これ、彼女が残していったものでしょうか…」
瑠璃はその和菓子を見つめる。小さなものだが、何か特別な意味が込められているように感じた。
その時、瑠璃の心にある考えが閃いた。もしこの和菓子が、京子からのメッセージだとしたら?そして、それが失踪に関わる手がかりであるとしたら?
「この和菓子、色彩が非常に独特です。もしかしたら、彼女が探していた答えがここにあるのかもしれません」
瑠璃はその言葉を口にしながら、もう一度その和菓子を眺めた。
しかし、嵐が強まる中、女性は恐怖を感じたのか、店を後にした。その後、瑠璃は警察に連絡し、この謎の和菓子を手渡した。結局、京子の行方は分からぬまま台風は過ぎ去り、町は静寂を取り戻した。
しかし、あの日の夜に見たあの和菓子が、京子の行方を知る唯一の手がかりだったのかもしれない。瑠璃の胸には、未解決の謎が深く残り続けた。
おわり
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よろつよ
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