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「山猫の謎」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第一章: 「失われた色彩」
里田瑠璃は山猫和菓子店のカウンターに立ち、棚に並ぶ色とりどりの和菓子を眺めていた。今日は特別に奇妙な一日だった。先ほどから、何かが欠けている気がしてならない。けれど、その“何か”が何であるかはっきりとは分からなかった。もやもやとした不安が胸の奥に居座っていた。
「瑠璃ちゃん、今日はなんだか元気ないね?」
隣で働く中村さんが心配そうに声をかけた。瑠璃は微笑みながら「そうですかね、大丈夫ですよ」と返したが、その笑顔には自信が欠けていた。彼女は色彩の資格を持っており、和菓子の色合いに関しては誰よりも敏感だった。だからこそ、棚に並ぶ和菓子の色が少しだけ鈍く見えるのが気になって仕方なかった。
昼下がり、一人の客が入ってきた。男性客で、どこか無表情な印象を持っていた。彼はゆっくりとカウンターに近づくと、「みたらし団子を一つください」と短く告げた。瑠璃は何か違和感を覚えたが、それが何なのかは言葉にできなかった。彼の手の動き、声のトーン、目の奥に見える何か。どれもが微妙にずれているように感じられた。
和菓子を手渡すと、彼は黙って代金を支払い、すぐに店を出て行った。その後、瑠璃は棚に戻り、みたらし団子の在庫を確認した。すると、彼が持っていった団子の場所だけがぽっかりと空いていたが、その周りの色が急に薄くなったように見えた。まるで色彩が吸い取られたかのように。
その夜、瑠璃は家に帰りながら、その客のことを考えていた。彼の背後には何か不穏な空気が漂っていた。そして、和菓子の色が失われた現象は偶然ではないと感じていた。次の日、彼が再び現れたら、何か聞いてみるべきかもしれない。そう思いながら、瑠璃は静かに眠りについた。
つづく
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よろつよ
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