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更紗 上

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第一章: 更紗模様の記憶


里田瑠璃は、京都の静かな路地に佇む小さな和菓子屋「風月堂」で働いていた。28歳、独身。小さな気遣いが得意で、いつも笑顔を絶やさない彼女は、店の常連客たちからも愛されていた。店内には、四季折々の美しい和菓子が並び、甘い香りが漂っていた。

ある日、瑠璃は店の片隅に飾られた更紗模様の布にふと目を留めた。その更紗は、彼女の祖母が愛用していたもので、幼い頃から何度も目にしていた記憶がよみがえる。「これ、持って帰っていいのよ」と店主が優しく声をかけた。瑠璃は思わず頷き、その更紗を大切に包み持ち帰ることにした。

家に帰り、静かな部屋で更紗を広げると、幼い頃の記憶が次々と蘇った。祖母の家の縁側で、風に揺れる更紗を見ながら食べた団子の味。祖母が忙しそうに手を動かしながらも、瑠璃の話に耳を傾けてくれた温かさ。更紗の模様一つひとつが、忘れかけていた思い出の断片をつなぎ合わせていく。

しかし、その思い出の中に一つ、心に引っかかる記憶があった。祖母が亡くなる前夜、何かを伝えようとしていたような、消えかけた声。だが、その声の内容は思い出せない。瑠璃はその晩、思い出せない記憶に苛立ち、眠れない夜を過ごすことになる。


つづく



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