ケイトウ 下
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第二章:炎の花が語る真実
夜が更け、街が静まり返った頃、瑠璃は庭のケイトウを見つめながら店内の窓際に腰掛けていた。月明かりに照らされた花壇は静かな美しさをたたえ、風もほとんど感じられない。その時、微かに人影が花壇の方へと忍び寄るのが目に入った。
息を殺してじっと観察する。人影は確かに花壇にしゃがみこみ、何かを手にしているようだった。瑠璃は意を決してそっと近づき、声をかけた。
「何をしているんですか?」
突然の声に人影は驚き、振り返った。それは見知らぬ女性だった。年のころは瑠璃と同じくらいだろうか。彼女は花を摘む手を止め、困惑した表情で瑠璃を見つめていた。
「ごめんなさい、驚かせてしまったわね。でも、どうしてこんな夜中に?」
女性はしばらく黙っていたが、やがてため息をつき、静かに口を開いた。「実は、このケイトウは私の亡くなった母の大好きな花だったの。ここの花壇で偶然見かけて、つい持ち帰りたくなったの……。母が病気だった時、毎日この花を見て元気を出していたのよ。でも、どこでも見つからなくて……」
瑠璃はその話を聞いて、思わず胸が痛んだ。ケイトウの花には、そんな深い思い出が詰まっていたのだ。彼女の無言の問いかけに、女性は申し訳なさそうに花を差し出した。
「お返しするわ。でも、少しだけでも、母のために持って行きたい。お願いできるかしら?」
瑠璃はしばらく考えた後、微笑んで頷いた。「どうぞ。もしよかったら、これからはお店に来てください。私が母のために花を用意します。」
その後、女性は感謝の言葉を残して去っていった。瑠璃はその日から、店先にケイトウの花を一つ、特別な場所に飾るようになった。花の鮮やかな赤が、静かに燃え続ける思い出とともに、彼女の心にも深く残ったのだった。
おわり
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よろつよ
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