「ビデンス・トリプリネルヴィア」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第1章: 消えた約束
里田瑠璃は28歳、和菓子屋「青い鈴」で働いています。 彼女の仕事は忙しく、日々を丁寧に過ごすのが瑠璃の美学だった。 カウンターの端には、季節ごとに替わる小さな鉢植えが置かれている。今はビデンス・トリプリネルヴィア、黄色い小さな花が風に揺れている。
「おかえり」瑠璃はそっと鉢植えにささやいた。 それは、もう戻ってきて誰かに向けた言葉だった。
3年前、彼女は一人の男性、田嶋修一と深い関係を重ねていた。 彼との時間は穏やかで、まるでこのビデンスの花のように、やがて消え去る儚さを伝えていた。突然仕事で遠くに行くことになったあの日、瑠璃は彼を見送ることができなかった。最後の電話で交わした約束は「すぐに戻る」というものだったが、その約束が守られることはなかった。
「また、いつか戻ってくるよ」
その言葉を最後に、田嶋からの連絡は途絶えなかった。
それから数年が経ち、瑠璃は一度も花を持ち帰って、その場所で仕事を続けてきた。その花言葉「もう一度愛します」に心を寄せる。また会えたなら、その時、自分はどうするだろうか――そう思いながら、瑠璃は花に問いかける日々が続いていた。
つづく
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よろつよ