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「失われた味の行方」 下

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第二章「真実の甘さ」


瑠璃は「山猫」の店主の言葉に従い、江戸時代の資料や文献を読み漁り、幻の羊羹「月影」のレシピを探し求めた。数ヶ月が過ぎ、彼女はついに秘伝とされる小豆が、ある山奥で取れる特別な品種だと突き止めた。しかし、その小豆を使って再現した羊羹は、どうしても噂に聞く「過去を呼び覚ます甘さ」には届かなかった。

ある日、瑠璃は思いがけず「山猫」の店主から手紙を受け取った。その手紙には「今度こそ月影の羊羹を味わいに来なさい」と書かれていた。瑠璃が再び店を訪れると、店主は言葉少なに、一切れの羊羹を彼女の前に置いた。木漏れ日の差し込む店内で、瑠璃はその羊羹を一口食べた。その瞬間、彼女の心に不思議な感覚が湧き上がった。

羊羹の甘さは、まるで忘れていた幼少期の記憶を呼び起こすかのようだった。思い出されるのは、祖母と過ごした時間、初めて自分の手で作った和菓子、失った者たちとの淡い記憶……そのすべてが、甘さとともに甦ってきた。

「味とは、ただの物理的な感覚ではなく、私たちの心に刻まれた時間と結びついているのです」と店主が静かに語った。「あなたが探していたのは、過去そのものだったのではなく、あなた自身の中にある甘い記憶だったのでしょう。」

瑠璃は、涙を拭いながら笑みを浮かべた。彼女が探していた「失われた味」は、いつも心の中に存在していたのだ。真実の甘さは、過去の記憶とともに生き続け、どれほど遠くに感じても、いつでも自分の内に呼び戻すことができる。



おわり

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よろつよ



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