「スパイダー咲きガーベラ」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第1章:静かに咲く花
里田瑠璃は和菓子屋「花椿」で働いている。彼女の手先は器用で、色彩の資格も持っているため、菓子に使う餡の色を美しく仕上げるのが得意だった。店に並ぶ菓子は、季節の移ろいを映すように、毎月異なる彩りを見せる。今月は秋の始まりを告げる和菓子、栗羊羹や紅葉の形を模した練り切りが店頭に並んでいた。
ある日、店に一輪の「スパイダー咲きガーベラ」が飾られていた。瑠璃はそれを見つめて、ふと思い出す。――この花言葉、崇高な美。少し華やかすぎるかもしれない。いつも和菓子の淡い色彩に囲まれている瑠璃には、少し馴染まない気がした。
瑠璃は、毎朝和菓子を作る仕事に忙殺されながらも、ふとした瞬間に自分の生活が単調すぎることに気づくことがあった。28歳、独身。趣味は仕事と和菓子づくり。そして、誰にも言わないが、小さな恋を抱えていた。
その恋の相手は、近所の花屋で働く青年、早坂翔だった。毎朝、店の前を通る時、彼が水をまいている姿が見える。少し乱れた黒髪と無骨な手。彼はいつも無言だが、客には誠実な笑顔を見せる。瑠璃はその笑顔に、密かに心が温かくなるのを感じていた。
だが、彼女は自分から声をかけることもできず、ただ毎日遠くから眺めるだけだった。スパイダー咲きガーベラを見て、瑠璃はまたその想いを胸にしまい込む。彼の美しさは、自分にとっては遠すぎる――あの花のように、華やかで手の届かない存在だと。
つづく
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よろつよ
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