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月影のパズル 下

第二章: 月影の帰還

次の日、僕と梨沙はその地図を手に、小さな港町を訪れた。地図の先に示されていた場所は、「月影灯台」と呼ばれる廃墟だった。ここに月の鍵が隠されているということだろうか。どこか現実感のないまま、僕たちは灯台の階段を登っていった。

灯台の最上階には、円形の部屋があった。部屋の中央には古びた鍵が置かれていた。鍵は月の形を模しており、その周囲には淡い光が揺れていた。梨沙はそれを手に取ると、僕に笑みを浮かべた。

「これはきっと、私たちが戻すべきものだよ」

彼女の言葉に、僕はうなずいた。そして、その瞬間、窓の外の景色が一変した。夜空には、かつての輝きを取り戻した月が浮かび、灯台の窓越しにその光が流れ込んできた。青白い光が二人の間を照らし、長い影を作った。

「月が戻ったね」

僕が言うと、梨沙は静かに笑った。

「もともと、そこにあるべきだったんだよ」

灯台を降りる途中、僕はふと気づいた。梨沙の黒いノートが、彼女の手の中にないことに。代わりに、地図の裏面に記された詩の一節が頭に浮かんだ。

"月は影を持たないが、影に支えられて光る。"

その後、梨沙は姿を消した。まるで月影の一部だったかのように。彼女と過ごした時間が本物だったのかどうか、今でも確信はない。ただ、夜空に浮かぶ月を見るたびに、あの夜の静けさと、彼女の笑顔が思い出される。

それが、僕に残された月のパズルだった。


おわり

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