見出し画像

「微細な色と味のささやき」 上

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第一章:小さな異変


里田瑠璃は、閑静な通り沿いにある和菓子屋「山猫」で働いている。彼女は28歳、元気で明るく、そして少しばかり気配りをしすぎる傾向があった。色彩の資格を持っている彼女は、お店の装飾や季節の和菓子に合わせた色使いにいつも気を配っていた。しかし、この日は少し奇妙なことが続いていた。

「この団子、少し違うんじゃないか?」と、常連客の老人が言った。いつもなら優しい笑顔で「少々お待ちください」と応じる瑠璃も、今日は何か引っかかるものを感じていた。確かに、団子の色合いが微妙に異なっているように見えたのだ。緑茶のような淡い色味が薄れ、いつもの柔らかい質感も何かが欠けている。

「瑠璃ちゃん、大丈夫?」同僚のさやかが心配そうに声をかけた。「なんだか今日、元気がないみたいに見えるよ。」

瑠璃は微笑んで首を振り、気にしないでと伝えたが、内心は落ち着かなかった。和菓子に変なことが起きるはずがない。だが、その後も奇妙なことが続いた。あるお客様が求めた羊羹が、なぜか注文とは違う味になっていたり、餡の色合いが予期せず変わっていたり。まるで、店の和菓子が何かを訴えているかのようだった。

その夜、瑠璃は閉店後の店内で一人、和菓子たちを見つめていた。「いったい、何が起こっているの?」小さな声で問いかけると、ふと背後で微かな音が聞こえた。振り返ると、影の中に人影が揺れているように見えたが、すぐに消えた。

不思議な違和感を抱えたまま、瑠璃は静かにお店を後にした。



つづく

Kindle unlimitedで無料で読めます


よろつよ



いいなと思ったら応援しよう!

よろつよ
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!