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「花束みたいな夢」 下

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第2章:消えた花束


それから数日が経ち、瑠璃の中の違和感はますます強まっていた。彼のことを調べたいという衝動が抑えられなくなった。瑠璃はネットで「露草」や「白い花束」に関連するものを探し始めた。数時間の検索の果てに、ある記事に辿り着いた。それは十年前の未解決事件についてのものだった。

その記事には、白い花束を持った男性が毎年同じ日、同じ時間に現れるという目撃証言があった。その日付は…偶然とは思えなかった。ちょうど彼が店に来るのと同じ日。さらに記事を読み進めると、事件の被害者が「和菓子店の店員」だったことが判明した。彼女は何者かによって命を奪われ、その手には白い花束が握られていたという。

恐怖に包まれる瑠璃。まさか、あの客が事件に関与しているのだろうか?その日から、彼女は店に出るのが怖くなった。次の土曜日が近づくにつれて、胸の高鳴りが止まらなかった。

そして、運命の日が来た。午後3時、彼は再び現れた。瑠璃は震える手で「露草」を包みながら、男性をじっと見つめた。いつもと変わらない無表情。しかし、その時、彼の手元には白い花束はなかった。

「あの花束は…?」瑠璃が恐る恐る聞くと、彼は初めて口を開いた。「あれは、彼女に贈るものだ。まだ待っているんだよ、10年経っても」

彼の言葉に、冷たいものが背筋を這った。彼が言う「彼女」が誰を指しているのか、瑠璃はすぐに理解した。彼の瞳には、まるで瑠璃自身を「彼女」として見ているような狂気が宿っていた。

その瞬間、店の扉が急に開いた。常連客のおじいさんが「ごめん、忘れ物があったんだ」と言って入ってきた。彼が瑠璃の前に立ちはだかったことで、男は一瞬だけ戸惑った。次の瞬間、彼は静かに店を出て行った。

それ以来、彼は二度と店に現れなかった。瑠璃は店先に花束が置かれているのを見たが、何も触れず、そのままそっとゴミ箱に捨てた。花束みたいな夢は、儚くも不気味なまま、彼女の記憶に深く刻まれた。

おわり


#花束の記憶 #時間の囚人 #和菓子と時間 #スリラー小説 #不気味な午後


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よろつよ



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