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秋空の入口 上

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第一章:秋風に舞う謎


里田瑠璃は、京都の古びた和菓子屋「青空堂」で働く28歳の女性だ。朝早く、店の裏手にある小さな庭で咲き誇る紅葉を見ながら、心を落ち着けるのが日課だった。空はどんよりとした灰色の雲に覆われ、肌に感じる風にはどこか寒さが混じっていた。秋が始まろうとしている。

ある朝、瑠璃はいつもと違う気配に気づいた。庭の隅に、見慣れない封筒が置かれていたのだ。白い和紙でできたその封筒には、何の文字も書かれていない。瑠璃は迷いながらも、それを手に取り、封を切った。中には一枚の短い手紙が入っていた。

「秋の入り口にて待つ。」

それだけが書かれていた。瑠璃は不可解なその言葉に戸惑いながらも、どこか引き寄せられるような感覚を覚えた。誰が、何のためにこの手紙を残したのか。考えても答えは出ず、その日は特に何もせず、仕事に集中しようとした。

しかし、次の日も同じ手紙が届いた。今度は封筒が庭ではなく、店のカウンターに置かれていた。瑠璃は驚きつつも、手紙を開いた。

「秋の入り口にて、君を待っている。」

瑠璃の心臓が強く鼓動した。誰かが彼女を見ている。しかも、非常に近くで。しかし、この言葉には何か特別な意味があるようにも感じた。秋の入り口とは、何を意味しているのか?

瑠璃は無意識に、彼女が持っている色彩感覚を頼りに、その言葉の裏にある意図を探ろうとした。秋の色、紅葉、夕暮れの空、そして、彼女が毎朝眺める庭。それらが頭の中で絡み合い、まるで一つの絵のように浮かび上がった。

その夜、瑠璃は夢を見た。夢の中で彼女は、紅葉が舞う秋の山道を一人で歩いていた。そこに誰かが現れるのを、彼女は待っている。だが、その顔は見えない。目が覚めたとき、彼女は心に決めた。次の手紙が届いたら、その「秋の入り口」を探しに行こうと。

そして、三日目の朝。瑠璃は再び手紙を見つけた。今度は、はっきりと場所が指定されていた。

「嵐山、渡月橋にて。日没前。」


つづく


#秋のミステリー #和菓子の秘密 #祖父の遺産 #京都スリラー #運命の選択

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よろつよ


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