台風接近 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第一章:台風の夜
台風が接近している夜、里田瑠璃は和菓子屋「緑月庵」の閉店準備をしていた。外では風が強まり、木々が激しく揺れている。瑠璃は気象情報を確認しながら、「明日はお客さんが来ないかもしれない」と独りごちる。
そんな中、突然電話が鳴った。時計を見ると、もう午後9時を過ぎている。こんな時間に誰だろうと不審に思いつつも、瑠璃は受話器を取った。
「里田さんですか?」
女性の低い声が聞こえた。どこか不安げな響きがある。瑠璃は返事を返すが、相手は少し黙り込んでしまった。その沈黙の間、強風が店の窓を叩きつけ、異様な緊張感が漂う。
「お話があります。お店に伺いたいのですが、まだ開いていますか?」
瑠璃は店の前に置いた「閉店」の看板をちらりと見たが、その声には何か訴えかけるようなものが感じられた。
「まだ少しなら、大丈夫ですよ。でも、台風が近づいているので、お急ぎください」
瑠璃がそう答えると、電話の向こうの女性は感謝の言葉を呟き、すぐに向かうと言って電話を切った。
瑠璃は電話を切った後も、その声の持つ奇妙な緊張感が胸に残っていた。果たして誰が来るのか、そしてどんな話があるのか。そんな思いが頭を巡る中、風雨はますます激しくなり、店の窓ガラスが鳴り響いている。
しばらくして、店の入り口のベルが鳴った。現れたのは、濡れた髪をきちんと束ねた女性だった。年齢は瑠璃と同じくらいに見えるが、どこか影のある表情をしている。
「お待ちしていました。何かご用でしょうか?」
瑠璃は落ち着いた声で尋ねたが、心の中では不安が渦巻いていた。
女性は少し戸惑った様子で周囲を見回しながら、ゆっくりと口を開いた。
「実は、あなたに相談があります。私の友人が行方不明になっているんです。そして、その行方不明になった日、彼女はこの店に立ち寄ったと聞きました」
瑠璃は驚きのあまり、思わず手を口に当てた。台風の夜、突如訪れたこの女性が持ち込んだ謎に、彼女の心は一層の混乱に包まれた。
つづく
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よろつよ
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