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「紅の織り糸」 下

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第2章:色の答え


数日後、瑠璃は店で新しい試みとして、「季節の彩り」と題した特製和菓子を出すことを決めた。紅色、黄色、深緑と三色の羊羹が美しく並んだその一皿は、瑠璃が持つ色彩感覚の集大成だった。初めて外に見せた自分の一部だった。

「山猫」の店先で試食会が開かれた日、多くの客がその新しい和菓子を手にしていた。中には、前回の年配の常連客もいた。彼は口に含むと目を細め、言った。「味も色も、深みがあるね。まるで心の中にしまっておいた思い出の味だ。」

その瞬間、瑠璃の胸にあった無数の小さな結び目がひとつずつほどけていく感覚がした。紅い色に込めた気遣いが、ほんの少しずつ彼女自身を解放していたのだ。毎日、人のことを気遣いながら、自分の心の奥行きを忘れていたことにようやく気づいた。

その夜、店の戸締まりを終えた瑠璃は、一枚の紅色の和紙を手に取り、小さな折鶴を作った。それは気遣いではなく、ただの彼女自身の贈り物だった。



おわり

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よろつよ



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