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月影の門 中

第二章 影の国の謎

 月の光は静かだったが、妙に重く感じられた。高坂は刀の柄に手をかけ、辺りを見渡した。空気が異様に澄んでいる。まるで、世界が一枚の絵になったようだった。

 しばらく歩くと、一本の鳥居が見えた。黒ずんだ木の柱には古い文字が刻まれていた。

 ――月影神社

 聞いたことのない名だった。高坂は鳥居をくぐった。その瞬間、背後の道が消えた。振り返っても、ただ月光が揺れるだけだった。

 「これは……何かの仕掛けか?」

 やがて、奥に社が見えた。朽ちかけた祠の前に、一人の男が座っていた。黒い着物に身を包み、白い面をつけている。

 「影を踏んだ者か」

 男はゆっくりと顔を上げた。

 「お前は誰だ?」と高坂は訊いた。

 「私は影の門を守る者。お前は既に、この世界の一部になりつつある」

 高坂は眉をひそめた。

 「この世界とは何だ?」

 男は微笑んだ。

 「影の国。月の影を踏んだ者が迷い込む場所。ここに入った者は、元の世界には戻れぬ」

 「冗談ではない」と高坂は吐き捨てた。「私は旅の途中だ。ここで足を止めるわけにはいかぬ」

 男は静かに頷いた。

 「ならば試練を受けよ。影を断つ力があるか試すのだ」

 風が吹いた。社の前の影が動き、形を変えた。それはやがて人の姿を成し、高坂に向かって歩み寄ってきた。

 「影を斬れ」と男が言った。「それができれば、お前は元の世界に戻れる」

 高坂は刀を抜いた。月光が刃に反射し、冷たい光を放った。


つづく


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