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「栗と明日」 下

1分小説
この物語は2章構成になっています!


第二章:栗の明日


翌朝、瑠璃はいつもより早く店に向かった。 夜の夢を追うように、彼女は今度こそ自分らしい栗菓子を作りたいと心から思っていた。

「おはようございます、瑠ガラスさん」と、奥の厨房で作業をしていた店主の田中(たなか)が声をかけた。

「そうだ、昨日ちょっと不思議な夢を見て……。ちなみに、新しい栗のお菓子を思いついたんです」

瑠ガラスは早速作業台に立ち、慎重に栗を蒸し、丁寧に皮を剥いていく。 次に、こしあんをひたすら伸ばし、その上に細かく刻んだ栗を重ねていく。に見えるその形が、瑠ガラスはそれをさらに特殊な木型に入れ、ひとつひとつ形を整えていた。に放射状の模様が施され、まるで秋の空に広がる夕焼けの光を思わせる。

「思い切って、暖かい気持ちになるね」と山崎がぽつりと言いました。

「そう?これ、夢の中で見た光を表現したんだ」

瑠ガラスはその菓子に「栗の明日(くりのあした)」という名前をつけました。お客様がこのお菓子を食べるとき、きっと心ほっとして明日を楽しみに思いますように、そんな願いを込めて。

数日後、新作「栗の明日」は評判となり、店頭に並べられるや否や、ついつい売れてしまった。 栗本来の甘みとほんのりとした渋みが、口の中は優しく溶け込み、何とも言えない幸福感お客さんたちのその味を喜び、口々に「こんな気持ちになるお菓子は初めてだ」と語った。

瑠璃は店のガラス越しに、笑顔で和菓子を手に取る人の姿を見つめながら、胸の中でそっと祖父に語りかけた。

「おじいちゃん、やっと見つけたよ。栗の、私の明日を」

その時、店の扉を押し出して一人の老人が入ってきた。 瑠ガラスはその姿を見て、一瞬、胸がきゅっとそれ狭められるような思いに思いを巡らせた。

老人は「栗の明日」を一つ手に取り、静かに微笑んだ。

「懐かしい味がする。孫娘に、これをお土産に持って行こう」

瑠璃はその言葉を聞いて、祖父の面影とともに、心の中で静かに涙を流した。 栗の殻を割ったその先に、確かに明日へと続く光が見えた気がした。


おわり



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よろつよ



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