盛岡西廻りバイパスの謎(14)2つのルート案を検討[南区間・4]
おばんでございます。西廻りシリーズ、今夜は3回連続での更新です。
盛岡市周辺で進むバイパス工事の原型となった半世紀前の構想について適当に調査するシリーズ。大学病院の移転を経て、いよいよ矢巾町から盛岡市永井へ至る国道4号「盛岡南道路」の事業化へ向けた検討が始まる。
今回は、その検討の中で行われたアンケートと、2つのルート案について簡単に紹介していきたい。
前回はこちら。
事業化への準備始まる
道路の整備が決まり、予算が付き、詳細な設計や用地取得などの工事関連の実務が始まることを「事業化」という。要するに「このルートで道を作りますよ」というプロジェクトが始まるのだ。
始まったら、基本は引き返せない。お金もたくさんかかる。
だから、プロジェクトが始まる前に課題を整理して、どのルートで道をつくるかの方向性を確認し、このプロジェクトを始めるのが妥当かどうかを、有識者を含めて議論する前段階がある。これを「計画段階評価」という。
東北での直轄国道の事業は、仙台にある国土交通省の東北地方整備局を会場に、土木や社会科学系の有識者らと国交省担当者による委員会の会合(社会資本整備審議会道路分科会 東北地方小委員会)で話し合われる。
盛岡南道路もこの委員会で、計画段階評価として検討され、その後同じ委員会で事業化が「妥当」との結論に至っている。下の図のような流れで3回の会合が行われ、検討材料として2回のアンケートも実施された。
矢巾口以北で検討着手
初回に委員会で検討されたのは2018年9月のこと。初回は、国交省側から、西徳田(矢巾口/矢幅駅入口)から西バイパス南口(永井)までの区間において、道路整備の検討をしたい旨が示された。物流ルートとして使われている従来の国道には渋滞箇所が存在し、医大移転後の救急搬送にも課題があることが、岩手河川国道事務所から委員会に説明されている。
区間を再度確認してほしい。整備を検討する区間は「矢巾口以北」であり、それより南の土橋白沢線付近は含まれなかったのだ。
あくまで、矢巾の大学病院や中心部と盛岡を結ぶルートの強化に注目したということなのだろう。特にこの委員会で、土橋白沢線ルートについて触れられることはなく、なぜ矢巾口以北なのかについての説明はなかった。特に必要な区間に絞り、早期の整備を狙いたいということなのだろうか。
課題整理へアンケート
初回の検討の場では、この区間での課題を把握するため、地域住民や事業者へアンケートを行う予定であることが説明された。
設問は下のような形で「交通混雑」「交通事故」「物流効率」「救急医療」の4つについて、それぞれの課題感を尋ねるもので、実際に個人と事業者の両方を対象に実施された。
下は、その設問と回答例である。5段階評価と自由記述で構成されている。
その後、2019年9月に2回目となる委員会での検討が行われ、アンケートの結果が報告される。下はその結果の概要である。
住民と事業者とも「交通混雑(交通渋滞が発生している)」に関して「そう思う」「ややそう思う」との回答が合計9割近くになった。それ以外の課題についても、交通事故以外の設問は、住民と事業者のいずれかが「思う」との回答になっている。
2つのルート案に絞る
2019年9月の2回目の検討の場では、上記の結果やアンケートの自由記述欄での回答などを踏まえ、事故統計や現状の所要時間などのデータとも照らし合わせて課題を整理。その上で、整備ルートについて2案で検討したい旨が報告された。
内訳は、矢巾口を過ぎてすぐ西へ方向転換する「バイパス案」と、中央分離帯設置や右折レーン整備などによって現道を大幅改良する「現道再整備案」の2つである。下の図は、そのルート案に関する資料からの引用である。
ご存知のように、最終的にはバイパス案が選ばれるのだが、一応「現道再整備案」がどのようなものだったのかを確認してみよう。
下の図は国土交通省の資料を基に内容を整理したものだ。一部、私Mirakikiによる意訳も入っているので注意。
それぞれ手法は異なるものの、いずれも「信号機のある交差点を少なくして、渋滞を減らす」ことで、走行性と安全性を高めるという部分は共通している。現道再整備案にある副道整備や交差点集約は、西バイパスの本宮以南でも採用されている手法だ。
ここで言う「現道」には、国道4号だけでなく、津志田─永井間の国道46号(上米内湯沢線から昇格)も含まれる。
さて、ちょっと私見を述べたい。最初にこの案を見て「現道再整備案って『捨て案』じゃないの?」と思ってしまった。支障家屋は300件、交通量や機能の分散・転換は測れない、矢巾スマートICや流通センター・卸売市場とのアクセス改善にもならない、そして事業費は高い。金が掛かる割に効果が限定的な案という仕上がりだ。
これでは、実質的に案が1つしか無く、バイパスを作りたいと言っているように見えてしまう。あの道路をさらに拡げるのが容易ではないことは、素人目にも分かる。
意地の悪いツッコミはこの程度にしておく。
現道を活かすという選択肢は現実的ではあるし、他の道路事業でバイパス案ではなく現道改良案が選ばれるケースは普通にある。
バイパスが妥当と判断
2回目の検討の後、もう一度アンケートが行われた。設問についての詳細は今回は省くが、1回目のアンケートは「今の道路にどんな課題・不満を感じるか」の調査だったのに対し、2回目は「どんな道路を求めるか・何を重視するか」を尋ねる調査だった。その優先順位を踏まえて、最適なルートを選定しようとするのである。
国交省が結果をまとめたのが下の図だ。上位は1回目と同じで「交通混雑・交通事故・物流効率・救急医療」の課題を解決すべきとの回答が多かった。
アンケート以外に、企業や業界団体、自治体、医療・消防関係者へのヒアリングも行われた。図の下のクリーム色の部分である。
ここには、現道改良案に関する懸念が並べられている。交差点を集約することについて「既存のバス路線への配慮が必要」「沿道の出入りや歩行者の横断が不便になる」との意見が上がった。
さらに「矢巾スマートIC周辺(県道不動盛岡線・赤林交差点)の渋滞改善」「矢巾スマートICから医大までの搬送ルートの改善」の意見も出た。要するに、現道改良案ではスマートICから医大までのアクセス改善や、流通センター周辺の物流改善にはつながらないという訳である。
国交省からの意見照会に対して、県や沿道の自治体も「バイパス案が好ましい」と文書で回答した。こうした結果から2020年2月の会合で「バイパス案」が妥当とされ、最終的に2022年3月の会合で事業化にゴーサインが出た。
西廻りバイパスの構想から半世紀。医大移転を契機として「命の道」という新しいお題目ができ、当初の想定(土橋白沢線)と異なるルートでの整備が決まったのである。
さて、土橋白沢線は事業化への準備段階で検討区間から外されていた。しかし、矢巾町は計画段階評価が始まった後も、当初は土橋白沢線ルートでのバイパス整備を諦めていなかったようである。
南区間編のラストとなる次回は、その辺りについて少し紹介したい。
次回へ続く。
※本シリーズは素人のサラリーマンが個人的に興味があるものを、根拠や資料の出典はできる限り示しつつ、推論を交えてまとめたものです。各行政機関等とは一切関係ございませんので、ご承知おきください。
※矢幅駅入口交差点は、歴史的経緯から便宜上「矢巾口」で表記しています。
参考文献
国土交通省 東北地方整備局 岩手河川国道事務所Webサイト『国道4号盛岡南道路』ページ(https://www.thr.mlit.go.jp/iwate/michi/R4_keikakudankai/、2024年11月4日閲覧)
社会資本整備審議会 道路分科会 第26回東北地方小委員会 参考資料2『計画検討に対するアンケート(第1回)』(2019年9月、https://www.thr.mlit.go.jp/road/ir/shouiinkai/R4-pdf/190930/sankou_02.pdf、2024年11月4日閲覧)
社会資本整備審議会 道路分科会 第26回東北地方小委員会 資料3『計画段階評価 第2回説明資料』(2019年9月、https://www.thr.mlit.go.jp/road/ir/shouiinkai/R4-pdf/190930/shiryou_03.pdf、2024年11月4日閲覧)
社会資本整備審議会 道路分科会 第28回東北地方小委員会 資料4『国道4号盛岡南道路 計画段階評価 第3回説明資料』(2020年2月、https://www.thr.mlit.go.jp/road/ir/shouiinkai/R4-pdf/200207/shiryou_04.pdf、2024年11月4日閲覧)