盛岡西廻りバイパスの謎（15）土橋白沢線と町の意向［南区間・5］
おばんでございます。西廻りシリーズ、今夜はなんと珍しい、3回連続での更新です。
盛岡市周辺で進むバイパス工事の原型となった半世紀前の構想について適当に調査するシリーズ。
南区間編最終回となる今回は、国道4号「盛岡南道路」の事業化へ向けた検討が行われる中、検討区間から外された「土橋白沢線」に対する矢巾町のスタンスについてクローズアップしていく。
今回は、町議会の記録がメインとなる。いつも以上に文字文字しい回となるので、ご承知おきいただきたい。
前回はこちら。
当初は土橋白沢線推し
ここまで散々お伝えしてきた通り、1970年代に「西廻りバイパス」構想の一部として計画された「土橋白沢線」は4号線になれなかった。もう、矢巾町の都市計画マスタープラン内の図からも消えてしまった。
国土交通省は整備の検討区間を、盛岡南道路の計画段階評価が始まった2018年9月の時点から「矢巾口以北」に絞っていた。今思えば、その時点から既に見込みはなかったのかもしれない。
でも、矢巾町は当初、土橋白沢線ルートでの国道整備を諦めていなかったようだ。町議会の町長答弁を少し引用したい。
計画段階評価が始まった直後となる、2018年9月の町議会。とある町議が「南道路のルートについて、町としても何本か検討するべき」「高田煙山線の予定線や矢幅駅周辺に新幹線高架を潜れる場所があるから、ある程度ルートの予測をして協議に臨むべき」と一般質問でただした。
それに対する町長の答弁はこうである。
いずれ今お話があったとおり、ルートは今お話しされた高田煙山線、それから矢幅駅周辺、もう一つ、土橋白沢線があるのです。それで今私どもは新幹線の下、いわゆる私どもはアンダーパスと言っているのですが、高規格道路でアンダーパスは余り好ましくないと思うのです。今土橋白沢線が、いわゆる新幹線の上、いわゆるオーバーをしていくということで、できるのであれば、私どもとすればそこのところ、土橋白沢線を。
「高規格道路でアンダーパスは余り好ましくない」「私どもとすれば土橋白沢線を」という発言が見られる。
同じ答弁の続きを見てみよう。
ということは、やはり国道４号の南道路、将来は国道４号線になるわけですので、できる限り矢巾町を縦断して今の国道４号線にタッチできるような形にしていくのが理想ではないのかなということで、ただこのことについても今３つの考え方がありますので、いろんな有識者の方々からもご意見をお聞きしながら最終的には決定していきたいのですが、ただアンダーの場合、防災から考えた場合、今地下道は、やはり特にも冬期間とか大雨洪水時には、余り本当は好ましくないのです。だからそういった、もうやはりご存じのとおりいわゆる沿岸の被災地の復興道路は高いところにあるわけですので、やっぱりそういうふうな高規格道路を考えた場合には、私どもとすれば土橋白沢線に。それでもいろいろな課題等はあると思うので、この辺のところもよく協議をしながら検討していきたいなということでございます。
似たような話をもう一度しているが「できる限り矢巾町を縦断して今の国道４号線にタッチできるような形にしていくのが理想」と述べている。
当時の町のスタンスが窺える答弁だ。
同じ年の12月町議会。計画段階評価の開始から少し時間が経ったこともあり、町議からは南道路関連の質問が相次いだ。質問内容はさておき、町長の答弁を二つ紹介したい。
国道４号盛岡南道路の建設計画については、矢巾スマートインターチェンジや岩手医科大学附属病院、そして長徳橋へのアクセスルートとして重要路線となりますことから、国や県に本町の意向を強く要望を続けてまいります。
そして今私どもは南道路のこれは矢巾スマートインターチェンジ、そして医大の附属病院、できれば長徳橋にタッチできるようなことができないのかということは、もうあそこのところの周辺は、もう古舘も紫波町もあるわけですし、そして川東の長岡、赤沢、彦部、佐比内にこれは456、396、そして106号にもつながる、今タッチの考え方は、矢巾口と旧徳田農協と、今お話し申し上げた南部屋敷のところの長徳につなぐ、そういう考え方もあるわけですが、いずれもう私どもとしては、そういったことを総合的に勘案しながらまちづくり、それも本町だけでなく、岩手医大が来ることによっての土地利用とか住宅政策は、矢巾町だけではできるはずがないのです。
「長徳橋」「南部屋敷」というワードが出てくる。長徳橋は紫波町長岡と矢巾町徳田地区を結ぶ橋だが、国道4号からは「長徳橋入口」交差点からアクセスする。前回紹介した「南部屋敷のある交差点」のことである。土橋白沢線の起点のすぐ北側の交差点だ。
この時点でも、町長の認識としては土橋白沢線ルートが念頭にあったような話振りである。
ただ、翌2019年は土橋白沢線に関する言及はなかった。計画段階評価が進む中で、可能性が低いということが分かってきたのだろうか。
そして、2020年2月に矢幅駅北側を通るバイパスルートが確定した。当初は難色を示していた「アンダーパスで東北本線を潜る」ルートになった。特にそれについて、今に至るまで議会で言及されたことは無いようである。
早期の進展に驚きの声
計画段階評価が始まってから、あっという間にルートに関する話が進んだことについて、町長は20年3月議会でこのように述べている。
実は私どもも国土交通省に平成28年から、いわゆる私ども西バイパスとこれまでは言ってきたのですが、まさかこんなに早く調査費がついて、ルートの方向づけまでなされるということは、もうかなり時間がかかるのではないかなと。ところが、ここにきて、２つのルート案のうち、バイパス案で小委員会では、その方向づけをされたということで、いずれこのことについては、もう早まると思うのです。だから、それに合わせて私どもはこれからそのルートに合わせて、特にも西部地域を通って、そして新幹線、そして東北本線を縦断するわけでございますので、西部地域の活性化もこれに併せて考えていきたいと。
町長の本音だろうか。「まさかこんなに早く」「ところが、ここにきて、」と、言葉の合間に驚きの思いが表れている。
この町長は矢巾町職員出身である。71年に入職したのだという。74年末の都市計画決定で、将来的な西廻りバイパスの整備を見据えて土橋白沢線が決定された経緯も、十分に知っていることだろう。
「まさかこんなに早く」──西廻りバイパスに関する長い経緯を知るであろう人物が発した言葉に、文字通り以上の意味を感じてしまう。
2024年10月の矢巾町白沢地区。
幅43mの都市計画道路の計画線が引かれたままのその場所では、今年も稲穂が実り、収穫された。コメ不足が叫ばれた今年は、高く売れたのだろうか。
これから先も、秋になればこの場所に稲穂が実るのだろう。ここに線が引かれた昭和の道路計画もやがて、みんな忘れてしまうかもしれない。
妙に他の場所よりも低い新幹線の高架橋だけが、その上空にできるはずだった「幻の4号線」を物語っている。
南区間編は、これにて終了とする。
北バイパス編につづく。
※本シリーズは素人のサラリーマンが個人的に興味があるものを、根拠や資料の出典はできる限り示しつつ、推論を交えてまとめたものです。各行政機関等とは一切関係ございませんので、ご承知おきください。
※矢幅駅入口交差点は、歴史的経緯から便宜上「矢巾口」で表記しています。
参考文献
2018年矢巾町議会定例会9月会議 会議録 （矢巾町議会、https://www.town.yahaba.iwate.jp/yahabatown/switch/gikai/gijiroku/gijiroku-3012.pdf、2024年11月4日閲覧）
2018年矢巾町議会定例会12月会議 会議録（矢巾町議会、 https://www.town.yahaba.iwate.jp/yahabatown/switch/gikai/gijiroku/gijiroku-3012.pdf、2024年11月4日閲覧）
2020年矢巾町議会定例会3月会議 会議録（矢巾町議会、https://www.town.yahaba.iwate.jp/yahabatown/switch/gikai/gijiroku/gijiroku-202003.pdf、2024年11月4日閲覧）
高橋昌造ネット「高橋昌造プロフィール」（2019年10月15日時点のWayback Machineアーカイブ、https://web.archive.org/web/20191015153123/http://www.takahasi-shozo.net/2019-03shiori/03/index.html、2024年11月4日閲覧）
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？