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あの指に帰りたい~優季の場合①~

彼女は何を見ているのだろう。
海の見える小さなカフェ。
必ず毎週土曜日の同じ時間に窓際の同じ席に座って。

スマホを触るでもなく本を読むでもなく、いつも窓の外の同じ方を見ていた。
年の頃は三十代くらいだろうか。いつもデニムにTシャツとシンプルな服装だったが、どこか洗練された大人の女性の気品をまとっていた。

綺麗な人だな・・芸能人の誰かに似てる気がするんだけど、何だっけ・・あのドラマに出てたあの・・
「すみません。」
窓の外から視線をこちらに移して急に呼び掛けられたので、優季は体が飛び上がるかと思うくらいびっくりした。
ジロジロ見ていたのを気付かれていたら恥ずかしいと思いながら、ご用聞きに行く。

「すみません。今日のおすすめのコーヒーをいただきたいんですが、これはどういう種類ですか?」
少しかすれていて低めの、聞き心地のいいトーンの優しい声。
近くで見るとより一層色白で、やはり色素の薄い琥珀色の瞳がとても映えて見えた。
コーヒーの説明をしながら、優季はずっとそんなことを考えていた。

「それじゃあ、今日のおすすめをいただきます。」
少し微笑んでこちらに視線を移されて、優季は思わず視線を逸らしてしまった。
意思の強そうな切れ長の目。強さと優しさが宿った瞳。

彼女はいつもカードで支払いをしていた。
いつもは他人のカードをじっくり見たりしないが、その日は無意識にカードの名前を見ていた。
 カオルさん・・どんな字を書くんだろう

それから何度か店で話をしているうちに、薫さんも私と同じ海外ドラマにハマっていて、新しいシーズンが配信になるたびに徹夜で見ているという話で盛り上がるようになった。
私は一応主婦業もやっているので、カフェの仕事が休みの日に旦那さんを送り出してから画面に張り付いて観ていた。

「そう言えば次のシリーズの配信明日からですよね?日付が変わったらすぐにでも見ちゃいそう。」
薫さんこんなに無邪気に笑うこともあるんだ・・かわいいな。
「楽しみですよね!でもうち、クールーで見てるんで配信されるの多分まだなんですよね・・主人が見たいチャンネルそこでしか配信してないし、勝手に他契約すると悪いからしてないんですよ。」
「そうなんですか・・・
じゃあ、良ければうちで一緒に見ます?明日お店定休日ですよね?」

ハッとした。まるで中学生の女の子が好きな男の子に一緒に帰ろうと誘われた時みたいに、すぐにうんと言いたいけどでも何を話せばいいの?どうしよう・・

「あ、でも予定ありますよね?無理に誘ってしまって・・」
「いえ!何もないです明日は旦那も一日いないし一日中大丈夫です!」
思わず大声で早口になってしまった・・一体何を動揺してるんだろう・・恥ずかしい
「ほんと?じゃあ明日待ち合わせはあとで連絡でいいですか?」
と薫さんはコースターの裏に連絡先を書いてくれた。


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