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「更年期こそいやなことはせず、やりたいことだけやりましょう」と医者は言った

自分が更年期障害だと気づいたのは、子育てが終了してただでさえ空の巣症候群気味となっていたある日、夫と些細ないさかいを起こした後に突然情緒がひどく不安定になったのがきっかけだった。

何年も夫婦をやっていれば、基本的な価値観が合っていても育った環境が違うことで生じる僅かな違いから互いに相方への不満が生まれる事は多い。夫婦とてもとは赤の他人だからそれは当たり前のことだ。だからどんなに不満があろうが苦しかろうが、「そんなものさ」と割り切り、何があっても比較的前向きに考えてなんとか乗り切ってきた。

けれども、冒頭にも書いた本当にささいないさかいを機に、それまで自分の心にふたをして見ないようにしてきた、「典型的な仕事人間で家庭を顧みない夫」への恨みの感情など、自らの中にあるどす黒い感情が一気に表面化した。そして夫との今後の人生を考えた時お先真っ暗な気分になり、これ以上生きていてもしょうがない、死にたい、死にたい、と本気で思うようになった。家族や親兄弟曰く毎日死んだ魚のような目でぐったりし、相当ヤバい人になっていたらしい。(自覚はあまりないが)

そんな私のこれまでにない様子を見た夫が、それまでの家庭放棄状態から一転、黙って食器の後片付けや掃除洗濯を行う家事メンに変貌したほどだから(笑)、客観的にみればよほど危ない状態だったに違いない。

最初は情緒不安定ということでうつが疑われた。そこで内科の主治医に紹介状を書いてもらい、主治医とつながりのある精神科のクリニックに行ったが、そこの医師に「自分の状況を実に客観的に見ることができているし、受け答えもうつ病にしてはハキハキしている。目つきはうつろだが精神の病気の人の目ではない、至って正常だ。もしかするとうつ病ではないかもしれない」と言われた。そして年齢的に更年期障害かもしれないので、と、婦人科受診を勧められた。

結局婦人科で検査の末に正式に「重度の更年期障害」と診断され、医師からは「辛かったでしょう?そんなに我慢しないでもっと早く来ればよかったのに」という暖かい言葉をいただいた。今もホルモン療法の真っ最中だが、今ではその効果もありだいぶ心身ともに快調だ。以後は精神科には行っていない。

ところで、精神科を受診した折にこんなことを言われた。

「年齢的に更年期障害の疑いがありますが、そのような心身が安定しない時こそ、無理していやなことはやらないように。思う存分やりたいことだけやりましょう。それはわがままでもなんでもなく当然のことですよ」

その言葉がどれほど私の心を楽にしたことか。だから周囲に「そんなので稼げるわけないじゃん。働くならパートにでも出なよ」と言われても意に介さず、以前から興味を持っていた「文章でお金をもらう」今の仕事に飛び込むことができたといっても過言ではない。でなければ、当時は芳しくなかった家族の反応を見て継続を諦めていたかもしれない。

正直言って更年期がこれほど心身にダメージを与えるものだとは予想だにしなかったが、たとえ誰もがたどる道であろうと病気は病気だ。病気の時に自分を酷使してどうする。もっと悪化させてどうする。もっとわがままになっていいんだよ……そうおっしゃってくださった医師の言葉は一生忘れないだろう。

そして。できるだけ多くの更年期障害で苦しむ人に私が医師から掛けてもらったこの言葉を伝え、少しでも気持ちを楽にしてもらいたい、そしてそうなったらできるだけ早く更年期外来に行くように勧めたいと思う今日この頃だ。

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