森薫のマンガがすごい!長年のファンが森薫作品の魅力を熱く語ろう
森薫という女性マンガ家の作品を長年愛好している。
その代表作にはヴィクトリア朝末期のイギリスを舞台とした『エマ(全10巻)』がある。この作品は2005年に文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受賞している名作だ。
また、同じ時期の中央アジアを舞台とする『乙嫁語り』も代表作の一つだが、そちらは現在12巻まで出ており今も『ハルタ』で連載中である。
ほかにも『シャーリー(現在2巻まで刊行)』という作品があるが、本文ではAmazonの作品リンクのみ紹介したい。
今回は私がもっとも好きな漫画家である森薫作品の魅力についてご紹介しよう。
森薫作品のここがすごい!(1)作画レベルが上がり続けている
森薫作品の一番すごいところは、なんといっても作画レベルが上がり続けていることだ。
他のマンガ家だと長年のうちに作画レベルが上がったり落ちたりするのが普通だが、彼女のマンガの作画レベルは一度も落ちることなく日々進化し続けている。
私が初めて森薫作品に触れたのは約15年前。書店で別のマンガを買った折についてきたチラシが『エマ』1巻の試し読み版だった。そこからはまって今に至るが、当時はまだ粗削りな印象もあった。
もちろん、昔から作画レベルの高さが垣間見える絵柄ではあったが、パッと見どこか簡素な感じで絵に動きがあまり感じられなかった。
背景のディテールまで細かく描かれ、なおかつ絵に動きがあるマンガを好んで読んでいた私には多少物足りなく感じたことをよく覚えている。
ところが、巻を追うごとにめきめきと画力が上がり、人物や背景がより精密な描写になってきた。
特に顕著な変化が見られたのが6巻あたりから。
サムネイルをごらんの通り、1巻と比べるとディテールまで描きこまれている様子がおわかりだろう。
最終巻(10巻)になるとさらに細かいところまで丁寧に描写され、1巻の絵柄と比べるとまるで別人が描いたかのように精密な作画になっている。
表紙の作画もきれいだが、ストーリー部分の作画レベルの進化には目を見張るばかり。精密なエッチング(でいいのかな?美術には疎いけど)のような作画でとにかく美しいのだ。
次作の『乙嫁語り』ではさらに精密さが増すだけではなく、それまであまり感じられなかった絵の動きも感じられるようになる。
たとえば、6巻には戦争のシーンがあるが、人物描写も背景も臨場感あふれるものとなっており、絵が生き生きと動いている印象を受ける。
また、光や影の描写力も『エマ』の初期に比べると格段に上がっており、19世紀中央アジアの風のにおいまで感じられるような絵柄になっている。
もちろん絵に好みの違いがあることは承知だが、少なくとも巻を重ねるごとに作画の精密さが際立ってくる変化は誰もが認めるだろう。
森薫作品のここがすごい!(2)ディープなリサーチや取材による時代考証がすごい
もう一つの魅力は、彼女の卓越したリサーチ力や取材力だ。
いずれの作品においても、時代背景や生活様式、公衆風俗、文化などを非常に忠実に再現している。その背景には、何度も取材やリサーチを重ねて事実確認や時代考証を行い、物語の舞台が歴史上の事実に即したものであるように注意を払っていることがうかがえる。
そのリサーチ力や取材力の高さは、ライターの末端として徹底したリサーチを心がけている私がひれ伏すレベルだ。そのプロ意識の高さには頭が下がるし、私も彼女を見習わなければと思う。
作品の巻末にある手記からもわかるように、森薫氏はもともとヴィクトリア時代のイギリスや中央アジアへの興味や造詣が非常に深い。
それが顕著にわかるのは、一見なんの変哲もなさそうな日常生活の描写だ。
身分や階級の違い、住む場所や生活習慣、衣食住の違い、人物描写の違いなどによって日常生活の描写を細かく書き分けている。
その作画力の高さもさることながら、それぞれの違いを絵で表現できるだけの知識を持っていることにただ驚くばかりだ。
その結果、物語がますます深みを増して面白くなっていることは言うまでもない。
森薫作品のここがすごい!(3)アシスタントなしでマンガを描いているが速筆
驚くべきことに、森薫氏はアシスタントなしでマンガを描いていることで有名なマンガ家だ。また、同人誌時代から非常に筆が速いことでも知られているらしい。
それが事実であれば、これほどディテールが精密なマンガを毎月一人で書き上げてたのかと驚くばかりだ。少なくとも、作画においてはもはや天才といえるレベルではないだろうか。
業種は違うが、同じ「書き手」として非常にうらやましい限りだ。才能の違いとはかくなるものかとため息が出る。
まとめ:世界史好きの方には森薫作品をぜひおすすめしたい
今回は、私が長年好きな森薫作品のすごさについて語ってみた。
絵柄もストーリーも好みが分かれそうなマンガ家ではあるが、画力の高いマンガ家の作品がお好きな方であればそれなりに楽しめるだろう。
もっとおすすめしたいのが世界史好きの方だ。特に19世紀あたりの世界史がお好きであれば森薫作品にはまる確率は高いだろうし、そうでなくてもコアな世界史の勉強にはなるに違いない。
そのような方はぜひ一度森薫作品を読んでみてはいかがだろうか。