「竜とそばかすの姫」はこれまでの日本の劇場アニメの最高傑作である。
皆さん、オリンピック観てるぐらいなら、ぜひ映画館に行って、大画面とドルビーサラウンドで身を委ねましょう。
絶対に後悔はしません。
何か、とんでもないものを観せられた。
細田守監督の過去の作品との関連でこの作品を論じる人もあるようだが、そんなちゃちな次元でこの作品レビューするなど論外だ。
この、従来の細田作品を完全に「超えて」しまったスケール感。
これまでの「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみ子供の雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」がお気に召さなかった人にも、是非観てほしい。
安易な比較論は慎みたいが、宮崎駿さんはもはや完全に過去の人となったと思う。
作風は異なれども、劇場アニメでこの作品と拮抗する評価を得られる作品があるとすれば、唯一、「この世界の片隅に」だけでしょう。「この世界の片隅に」の方が好きと言う人がいても、私は認める。
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主人公すずは、高知の田舎に住む地味な女子校生。母親を水難救助の際に亡くしていて、父親との二人暮らし。
母の生前から、少しずつスマホを使った音楽作りになじんでいく。
そして、インターネット上の仮想世界”U"の歌姫、「エル」として、またたく間に、世界中のファンを勝ちうるようになる。
まあ、このエルが最初に歌うシーンを観るだけで、圧倒され、泣いてしまう人もあるかもしれない。
おいおい、まだこの映画がはじまって30分も経ってないのだよ。
ところが、この仮想世界の格闘技王である、竜が突如現れ、歌うエルと、それを聴く、恐らく何億ものアバターのいる仮想空間は混乱し、正義を名乗る自警団、「ジャスティス」の追撃を受ける。
この竜は、”U"の秩序を乱す存在として糾弾され、おたずね者扱いをされている一方で、一部にはダークヒーローととしての熱狂的ファンも持つ。
すず=エルは、この竜の孤独と癒えぬ傷にひかれて、関わりを持ち始める。
さて、この竜の現実世界での正体は? ということに当然なってくるのだが、この物語の後半は、ネタばれしたくないんだよね。
・・・と、あらずじだけ書いてしまうと、「サマーウォーズ」っぽくなってしまって、この作品の真の凄みが全然伝わらないんだけど。
圧巻は、むしろ○○が歌い出すシーンにあるのだが・・・おっとっと。
後半には、現代のかかえる、深刻なテーマも描かれることになりますが、そこをネタバレする奴なんて大っ嫌ぇだ!!
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そもそも、このエルのキャラクター、従来の細田作品的ではない・・・というより、日本的ではない。ディズニーの色あるよねと思っていたが、まさに「アナ雪」のキャラデザのジン・キムという人でした。
このキャラ、ネットの小さな映像やポスター観た人は、ちょっとバタ臭くで馴染めない人もあるかと思いますが、実際に大画面で動く絵として観て、あの歌声を聴くと、圧倒的なオーラを放つものと感じられるかと思います。
このエルの歌とすずの声の両方を演じているのが歌手の中村佳穂さん。
ともかくエルの歌う曲そのものが素晴らしすぎる。
中村さんは、マイナーレーヴェルですでに実績を積み上げたシンガーソングライターです。つまり曲の作詞・作曲が彼女自身のものと思われます。細田さんが彼女をどういう行きがかりで協力者になってもらったかについては以下を参照:
●中村佳穂『竜とそばかすの姫』主人公すずとベル役の歌声に注目!少女時代から歌うこと (FUDGE)
BGMを含めて、サントラは売れまくるでしょうし、エルの曲は「アナ雪」の"Let it Go"並みに流行り、紅白にも、「うまひょい伝説」と共に(瀑)、当選確実でしょうね。
細田作品には、これまでも狼やらバケモノやら、いろんな獣系の異型のキャラが出てきましたけど、どうも実際に動く絵になってしまうと、何かが急に貧困で物足りないものになってしまっていたと思います。それが今回はまるで感じられない。精悍・精細で、しかもよく動きます。
この作品、細田監督と交友を持つようになった、たくさんの国際的スタッフの協力によって、はじめてこの普遍的で完璧なスケール感になったのだと思います。細田監督の潜在的可能性を完全に実体化できたということ。
忘れてはならないのは、このきっかけとなったのは、日本では一般には少し不評だった「未来のミライ」が、国際的には評価されたことです。
全体として、細かいカット割りでテンポよく進むのもいいですね。
物語の構成は、これまでの細田作品を完全に突き抜けた、実に見事な完成度と周到さであり、これ以上を求めることは不可能である。勢いに任せた展開など微塵もない。
すずの住む高知の田舎の風景描写も極めてリキ入ってて素晴らしいのは、”U"の3Dデジタル的表現と絶妙のコントラストをなしています。・・・これ、「サマーウォーズ」の比じゃないですよ。
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・・・ちょっと、さりげないことを最後に書いておきますね。
竜の住む城の壁に掲げられた女性の肖像画の顔の部分が中心として割れているのですが、これは、竜の「正体」が、母親を失っており、母親がいなくなったことを恨んですらいることの象徴的表現だと思います。
同じ母親を失った父子家庭であるとは言え、すずの家庭と、竜の「正体」の家庭は、全く対照的なものとして描かれており、そこに細田監督の家族観が強く反映しているのでしょう。
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