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私の「推しの子」論 第4回 早熟少女、有馬かなの苦悩
有馬かなは、ものごころつく前からモデル・子役として活躍していたようだ。
「重曹を舐める天才子役」(ルビイ曰く)、もとい「十秒で泣ける天才子役」であったかなは、高慢なプライドを持つに至った。
忙しい、通りがかりのスタッフに「バック持ってもらえる?」と平気で言う。
そういう彼女のプライドをずたずたに引き裂いたのが、医師、雨宮吾郎が転生してきた、星野アイの(実は)息子、アクアだ。
共演することになった時、アクアは、技巧を凝らして「演技」するのではなくて、素の自分のままでやってしまう方が、不気味な子供という監督の期待に応えることになると察する。
彼の姿は2,3歳の子供でも、中身は大人というギャップがもともとあるのだから。
傍らでその演技を見せつけられたかなは、「撮り直してくれ」と泣き出してしまう。
本来の脚本になかったのにねじ込まれた、どこの馬ともわからない一歳下に、自分は負けた。
でもそういうアクアの姿は、かなの脳裏に焼きつく。
再会の日を願っていた。
それはアクアとルビイが高校進学した際に実現する。
アクアの姿を見たかなは目を輝かせる。
アクアが美形だったこともあろうが、この段階でほとんと恋のまなざし。
アクアがかなのことをやっとのことで思い出せたのにはムカついたが。
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実は、かなの子役としての限界が来るのは思いのほか早かった。
「ピーマン体操」がヒットしたまではよかった。音程の外れた歌声もご愛敬。
でも、ここでかなとスタッフの勘違いがはじまる。
この調子で歌を出していけば、結構イケるのではないか?
かなは歌のレッスンを重ね、見事に演出されたMVも撮る。
しかしそうした曲は、まるで不発続き。
新曲発表の記者会見会場は人影もまばらで、スタッフをサクラとして分散配置する始末。
もともとプライドだけは高かったから、子役としても使いづらいとみなされたし、かなより才能のある子役に仕事はどんどん奪われていく。
小学校時代は、すでに「かなは賞味期限切れ」という評価が多くなっていた。
*****
子役がメインの所属事務所がかなにできることは限界があった。
かなはフリーランスの道を選ぶ。
周囲への協調性も身につけていく。
しかし、ネームバリューはあるけど安く使えるという便利さで地味な仕事が舞い込むばかり。
かなは世間から忘れられていく。
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そうした中、新興サブスク配信局オリジナルの、人気コミック原作の実写ドラマ「今日は甘口で」の主役という仕事が舞い込む。
周りはルックスはいいが演技は大根の連中ばかり。
かなは、そうした中で、自分がうま過ぎる形で目立ち過ぎないように演技をコントロールしさえする。
脚本の浅さもあり、原作者も見学に来て失望する水準のドラマは、全くの不評。
かなは、最終回にのみ出演するストーカー役の男優が降りた代役に、アクアをプロデューサーに推挙する。
アクア自身、それまで演技の舞台で自分の才能の平凡さに俳優としてのモチベーションは失っていたのだが、ロケ現場に来て開き直る。
こうなったら無茶苦茶にしてやる。
こうして相手役の男優を挑発し、アドリブで迫真の演技。
かなも熱い涙をクライマックスで流す。
こうしてドラマは最後にして、絶賛される。原作者も感謝しに来る。
ただし、脱落していなかった一部の原作ファンと、玄人筋にしか、その大詰めの素晴らしさは広がらなかったのだが。
相変わらず、かなは世間に再ブレイクしないまま。
*****
アクアが、かなを、妹のルビイが結成しようとしているアイドルグループのメンバーに誘う。
かなはアクアに恋心を強く抱き始めていた。
アクアがリアリティショーで黒川あかねといい関係になるのには嫉妬の炎を燃やす。
しかしかなは、長年の売れない生活の中で、性格がひねくれて卑屈になってしまっていて、思いと裏腹のことばかり言うようになっていた。
でも、アクアの方は、かなが、普段のなんでも仮面をかぶった打算でしかふるまえない中で、あけすけにものを言える相手として、かなをキャッチボールに誘うくらいであった。
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アクアは、リアリティショーで知りあった有名YouTuber、MEMちょも引き込んで、3人グループ、新生B小町として出発させるようにお膳立てをする。
誰をセンターにするか?
かなは、自分なんて「賑やかし」でいいのだと辞退しようとする。
ルビイとMEMちょは、カラオケルームでどちらが歌がうまいかを勝負するが、二人とも惨憺たる採点。
気分なおしにかなのピーマン体操を歌おうとしたら、タブレットにかなの売れなかった曲のリストをみつける。
それを視聴した2人は、かなの報われなかった努力に気づき、かなこそセンターがふさわしいと意見が一致するわけだが。
かなも、子役時代のネームバリューではなくて、「今の自分」を見て欲しい。
「一人だけの失敗ならいい。でも今はこの2人にも、私と同じと思いはさせたくない」
かなは責任を過剰なまでに背負う。
初ステージ直前にかなのそうした様子に気づいたルビイは、
「あなたは、どこにでもいる、新人アイドル」
と、肩の力を抜かせる。
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ステージでは、歌は下手だがアイの血を受け継いだオーラを放つルビイと、有名YouTuberとして客層を引っ張ってきたMemちょにばかり観客の視線は向かう。
「誰か私を見て!
私を必要として!
私がここにいていいと言って!」
すると、かなの色のサイリウムを大きく手を回しながら振るアクアの姿がかなの目に入る。
こうして、かなはやっとのびのびとステージで演技できるようになる。
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かなは、黒川あかねとアクアが主役を務める2.5次元演劇舞台で二人と共演することになる。
黒川あかねとかなは同い歳。
あかねはかなにばかり注目が集まり、仕事を奪われていた子役時代の恨みを忘れてはいない。
この「三角関係」の行方は?というところで、TVシリーズ1期は終わる。
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有馬かなは「ギフテッド(gifted)」である。
生まれついての才能と知性に恵まれている。
登場人物としての彼女の母親にはセリフがないが、彼女がものごころがつく前からステージ・ママしていたことは確かであろう。
しかし、こうした子供は発達障害的な側面を持つことが多く、周囲の空気を読めない子供時代を送っていることが少なくない。
まわりは誉めそやす。彼女は天狗になる。同世代の友人はなかなか生まれにくい。
だから、実は内心孤独であることも少なくない。
彼女は挫折の中から、やっとのことで周囲との協調性を身につける。
しかしそうした努力はなかなか報われない。
両親も田舎に越してしまった。
彼女がこころを開ける、アクア、ルビイ、Memちょとの出会いが、どれだけ貴重なものであったかが伝わるストーリーである。
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