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3月の日記
春のはじめ、
ゆれる日々の日記のようなものです。
3月某日
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うたたねから覚めると風が流れてきて春の匂いがする。
シーツにふせたままシジュウカラの鳴くのを聴く。やさしい声。最近雨月物語を読んでいる。眠りかけてまた読んでまた微睡む。
物語と夢とさえずりと、届かないはずの沈丁花の甘い香りがほどけるようにまざってゆく。これはだれの見た夢なんだろう。
3月某日
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最近はことに梅がゆかしく感じて、どこに行っても、眺めている。
鄙びた山路に咲いていた佇まいを、忘れられないでいる。
今年の初め、手帳に「楚々」と書いた。
やさしく、慎ましく、たおやかに。梅の花のようでありたい。
3月某日
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仕事と体と生活のことで悩みすぎて、たくさん泣いた次の日、ふるさとへ帰った。
花桃の木の近くで父は趣味の包丁研ぎをし、母は畑のほうれん草を採る。その後、母と畦道を歩いた。
もう花ニラ咲いてるね、と言うと、ほんとだね、と言う。まだなにも植えられていない田んぼを通りすぎる。空が青かった。
たくさんつくってくれた長葱入りのコロッケを持って帰った。
包丁は、よく切れる。父からもらった砥石で、ときどき研いでいる。生きてゆこうと思った。
3月某日
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人生の軌道を変えようと思った。
すこしずつ小さな選択をくり返して、あたらしくなってゆきたい。
3月某日
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あたらしい仕事に踏み出すことを決めた。
誕生日の前日、バスにゆられながら外の景色を眺める。鶯の声が聞こえる。
梅の花がこぼれてゆく。咲きはじめた雪柳。花びらをひらく白木蓮。
ただそこで、自分を咲くということ。しずかにほほえむように。
やさしく。やわらかく。
春の花のように生きてゆきたい。