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90年代初期、隙間のUK Rock(感想)

90年代初期、UKの音楽シーンというとマッドチェスターまたはブリット・ポップのムーブメントが思い出されるけれども、それらのムーブメントのせいで逆に取りこぼされている、または忘れられがちな作品の中から、いつまでも聴きたくなるような楽曲についての感想などを。

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Giant Steps/The Boo Radleys

2022年3月には、24年ぶりのニューアルバム・リリースを控えているリヴァプール出身のバンドThe Boo Radleysによる、Creationから2枚目のアルバムは1993年リリース。UKアルバムチャートでは17位まで上がった。
前のアルバムリリースの頃、日本ではシューゲイザー・バンドで括られて紹介されていたと記憶しているのだけど、この『Giant Steps』ではレゲエ、ダブ、サイケな要素が混沌としている。
しかし情報量が多いながらもまとまりはあるせいか、サージェント・ペパーズ~を引き合いにだされたりもした1枚。

加工されたSimonの声とレゲエっぽいリズムに、ギターとトランペットの音が洪水のように流れる「Lazarus」が名曲。静かな入りから突然挿入される「Leaves And Sand」の轟音ギターも心地よい。

このアルバムは2010年に、シングルB面曲を追加されたCD3枚組のExpanded Editionがリリースされている。Saint Etienneによって浮遊感のある「Lazarus」も聴きどころだけど、さらに深く重たい場所へ連れて行ってくれるSecret Knowledge のMixも好き。

セールス / 知名度的には、ポップな路線に舵を切ったアルバム『Wake Up!』の方が高いと思うけども、John Coltraneを想起させるふてぶてしいタイトルから自信を感じられる、こちらの作品の方が充実していて好き。


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Seamonsters/The Wedding Present

1991年リリース、USでわずか10日間でレコーディングされたThe Wedding Presentの3rdアルバム、プロデューサーは既にシングル曲「Brassneck」で組んでいたSteve Albini

ヴォーカル兼ギターのDavid Gedgeによる、キレの悪いしわがれ声には好みが分かれるのを通り越し、むしろとっつきづらさがあるのだが、何度も繰り返して聴き直すうちにラフで耳障りなバンド・サウンドにはなんとも言えない魅力があることに気づく。
曲の途中から鳴り出す高速爆音ギターが特徴的だけれども、ギターのアルペジオも素敵で「Dalliance」のように陶酔感があって美しい余韻の残る曲が多い。特に好きな曲は、アルバム最後にこみ上げてくるような曲の「Octopussy」
このアルバムは2001年にシングル曲などが追加されて再発されており、発売後数年経ってからも、海外のいくつもの雑誌で名盤として扱われているだけあって色褪せない。


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Sleepwalking/Kingmaker

眼鏡男子Loz Hardy率いるスリーピース・バンド、Kingmakerによる2ndアルバムは1993年リリースでUKアルバムチャート15位。
レーベルとの確執があった割にチャートアクションは健闘しているので、マーケティング次第ではもっと売れていたのかも。

「貴族院やブリットアワーを爆破しに~」と歌う「Armchair Anarchist」のように皮肉の効いた歌詞と、ギターフレーズのカッコいい曲の多い1枚。
お気に入りは、イントロで一緒に手拍子したくなる軽快なノリの「Ten Years Asleep」で、切ない曲調の「Sad to See You Go」も好き。

2020年には3枚のアルバムとシングル音源がまとめてリマスタリングされた5枚組CDがCherry Redからリリース。『The Killjoy Was Here EP』に収録されていた「Eat Yourself Whole」も良かった。


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Bed/Five Thirty

スリーピースのロックバンド、Five Thirtyのアルバムリリースは1991年の本作のみで、曲の雰囲気などからもThe Jamが引き合いに出されていたバンド。
当時、評判の良かった「13th Disciple」のカッコよさが際立つし、強いコントラストで数字を組み合わせたカバーデザインも好印象。

2013年には、未発表曲が追加収録されたExpanded Editionがリリースされるも、リマスタリングされていないのか?と思われ、音圧は低いまま。
シングルB面にのみ収録されていた佳曲「Something's Got to Give」や、The Beatlesのカバー「Come Together」が聴きやすくなっただけでも良しとすべきか。


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I've Seen Everything/The Trash Can Sinatras

スコットランド出身のバンドThe Trash Can Sinatrasによる2ndアルバムは、Go! Discsから1993年のリリース。

爽やかでキラキラしていた1stと比較すると、大人しいサウンドになった印象だけど、美しいメロディラインにグッとくるし色褪せない。
少しこもったピアノの音が印象的な「Hayfever」や、アコギのサウンドがキレイな「I've Seen Everything」とか、私はこちらの2ndの方が好き。

本作は2021年にシングルB面曲が追加され、Past Night From GlasgowからCD/LPのみで再発されている。こちらには明るくてポップな佳曲「Kangaroo Court」が収録されているのが嬉しい。


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Blind/The Sundays

1992年リリース、The Sundaysの2ndアルバムはUKアルバムチャート15位まで上がった。
レーベル移籍後の作品となるが、作風はほぼ1stの延長にある。素朴でリバーブの効いたギターサウンドには浮遊感があるのだが、アルバムトータル印象には陰があって1stよりも暗い。
少し舌っ足らずに高音で歌い上げ、ピュアなイメージを持つHarriet WheelerのスタイルはEddie Readerに近いかも。

轟音のギターサウンドを聴くような気分ではない時に、こういう地に足がついていないようなサウンドが妙にハマることがあって、アコギと優しい歌声が素敵な「Love」や、「24 Hours」で奏でられるギターのメロディーも美しくて好き。
しかし、正面を直視してくるカバー写真の人形が怖いのはどうしたものか。



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God Fodder/Ned's Atomic Dustbin

1991年リリースの1stアルバムはUKアルバムチャート4位。
シューゲイザーに影響受けたと思われる轟音ギターだが、曲のテンポは速め。さらにベーシストが2人いて、片方がメロディラインを弾くという変わった構成のバンド。

ベースラインが感傷的な「Happy」「Until You Find Out」「Grey Cell Green」のようにマイナーコードの曲が印象的で感傷的。短い尺の曲が多いのもあって、一度聴くとついリピートしてしまう。
シングルの日本盤や、日本独自のシングルB面集『And Besides...』がリリースされていたので、当時の日本でも人気があったと思うが、2ndアルバム以降は失速してしまったのが残念。


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Emotion Lotion/Top

リヴァプール出身の3人組、TOPによる唯一のアルバムは1991年のリリースで、レーベルはIsland Recordsから。

「Buzzin」のように、マッドチェスターの影響を感じさせるリズムの曲もあるけど、だいたいはリヴァプール出身バンドらしいオーソドックスなギターポップで、ノリのよい「Feel Good」「Easy」なんかが好き。
飛び抜けて良い曲は無いけれども、繊細で素朴なポップソングには心をうたれるものがあって、知名度が低い割にはなかなか良い。

メンバーのAlan Wills、Joe Fearon、Paul Cavanaghは80年代前半から活動していてこのバンドが最初ではないみたいだけど、あまり売れなかったせいか、信頼できるソースによる情報が少なくてハッキリとしない。
日本盤の帯には小山田圭吾、小沢健二によるコメントが掲載されていたので、日本では似たようなファンに売るつもりだったのだろう。


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Life's A Bonus/Resque

1991年リリース、Resque唯一のアルバムはMusidiscレーベルから。
このバンドの情報もWebで検索してもほとんど情報がヒットしないし、Spotifyにも見当たらないから、バンドの存在自体が自分の記憶違いだったかな?とも思ったけど、中古のCD/レコード屋のWebサイトではヒットする。
記憶にある人が思い出さないと発掘すらされずに、ほぼ無かったことにされている1枚。

王道のネオアコアルバムで、飛び抜けて良いアルバムとは思わないけれども「Yeah!」「She Drives My Train」など、爽やかで印象的なフレーズの曲もあったり。でも、カバーデザインが気味悪いのはマイナスか。


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Easy To Smile/Senseless Things

ウエスト・ロンドンで結成された4人組のバンドSenseless Thingsによるシングルの編集盤。
UKシングルチャートで「Easy To Smile」18位、「Hold It Down」19位まで上がった2枚のシングルをまとめた日本独自の編集盤が1991年にリリースされていた。

音はパンクっぽくてキャッチーだが流行りの音ではなかった。チャートアクション的にはこの2曲が最も良く、ベースがやたらと頑張っている「Got It At The Delmar」も好き。
残念ながら、フロントマンで、シンガー/ソングライターのMark Kedsは2021年1月に50歳の若さで他界してしまったとのこと。


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Revenge of the Goldfish/Inspiral Carpets

マッドチェスターのムーブメント中心付近にいた、Inspiral Carpetsによる3rdアルバムは1992年のリリース。
UKアルバムチャート17位というのは、初期4枚のアルバムの中で最も悪いチャートアクションだけど、内容的にはこのアルバムが最も充実していると思う。

オルガンが疾走する「Smorking Her Clothes」や、重たいダンスビートの「Dragging Me Down」とか好きだし、珍しく激しい曲の「Irresistible Force」も佳曲。

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前年にリリースされたシングル「How it Should Be」も、ダサ・カッコいい曲で好きだったのに、なぜかアルバムには未収録。
ひとりだけこちらを振り向く女の子のカバー写真も含めて好きだった。


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Miaow/ The Beautiful South

1994年リリースのThe Beautiful Southによる4thアルバム。レーベルはGO! Discsからで、UKアルバムチャート6位。
Dave RotherayPaul Heatonによってソングライティングされた曲は、牧歌的なメロディーなのに、露悪的で皮肉の効いた歌詞はいかにも英国的。「Mini-Correct」の卑猥な歌詞とか酷い。

Norman Cookがプログラミングに参加したとされる曲はイマイチだけだし、前作『0898』や、次の『Blue Is the Colour』と比較すると地味でぼんやりした印象の作品だけれども、「Good As Gold」はポップソングとして洗練されているし、穏やかにはじまる「Hold On to What?」も好き。


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Hormonally Yours/Shakespeare's Sister

BananaramaSiobhan Faheyと、USのシンガーMarcella Detroitによるデュオの2ndアルバムは1992年のリリース。ユニット名はThe Smithsの曲名から。
アルバムからのシングルカットが5曲、UKアルバムチャート5位と商業的には成功しているはずだけれども、30年近く経過した2021年になって、ようやく音質の良くなったRemastered and Expandedがリリース。

ジャンルとしてはロックというよりも、ポップスになると思うのだけど、低音のSiobhanと不自然なほど高音のMarcellaによる掛け合わせは、耽美なPVでのルックス含めてかなり風変わり。

UKチャート8週連続1位になったバラード「Stay」が有名だけど、悲鳴のような出だしが印象的で疾走感のある「I Don't Care」が好き。お互いを殺そうと企んでいるPVも良くて、後にデュオを解消しているだけにリアリティがある。
徐々に盛り上げてくれる展開の「Hello (Turn Your Radio On) 」も好きだった。


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Fellow Hoodlums/Deacon Blue

スコットランド出身、Deacon Blueの3rdアルバムはUKアルバムチャート2位。
アコースティック主体のサウンドは、フォークやカントリーソングみたいで洗練されていないけれど、Ricky RossLorraine McIntosh2人のヴォーカルの掛け合わせが美しいし、のんびりしたいときに聴くと落ち着く。
Sly & The Family「Family Affair」のイントロを使用した「Closing Time」が楽しげで好き。
2012年にシングルB面曲などが追加収録されて再発。


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Electronic/Electronic

Bernard SumnerJohnny Marrによる、1stアルバムは1991年のリリースでシンセ・ポップ。UKチャート2位で、セールス的には全世界で100万枚以上売り上げている。

購入当時、ダンス・ミュージックにしては音が派手過ぎてあまり好きになれなかったし、時代を経て聴き直してもシンセやドラムの音色などがいかにも古臭いと思う。
しかし、こういうポップ・ソングだと思って聴くとメロディーは美しくてむしろ素晴らしい。Pet Shop BoysNeil Tennantが参加した「Getting Away With It」が良かった。

2013年にはシングルB面曲などが追加収録されて再発。チャカチャカしたリズムパターンが心地よい「Idiot Country Two (12" Version-Edit)」が良かった。

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90年代前半というと、どの楽曲を聴くべきかを決めるための情報ソースはほぼ音楽雑誌のみで、音源はCDまたはレコードのみ。
そういう状況で聴いてきた音楽を、記憶の糸をたどりながら個人的な趣味で選択していることもあって、網羅性に関してかなり取りこぼしがあるラインナップになっていると思う。

とはいえ、機会が無いと本当に忘れてしまうような作品が多いのと、備忘のメモも兼ねてまとめてみた。あと、改めてこうやってカバーデザインが続けて並ぶと、なかなか趣があるなと。


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