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AMY エイミー(感想)_こわれやすさと表裏一体の表現力

『AMY エイミー』は2016年に日本公開のイギリス映画で、監督はアシフ・カパディア。
2011年に27歳で亡くなったイギリスのシンガー、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーとなり、成功とその裏側にあったプライベートの様子が赤裸々に映像に収めれられている。
以下、ネタバレを含む感想を。

無名な頃の映像も記録

エイミー・ワインハウスはロンドンの北部サウスゲイト地区にてユダヤ人の両親のもとに生まれており活動期間は2003~2011年と短く、リリースしたアルバムは2枚、シングルも9枚と決して多くは無い。しかし当時たいして興味を持っていなかった私でも特徴的な歌声は聴けばそれと分かるほど個性的だった。

同時代の東京は様々なジャンルを扱う扱う大小のレコード屋にもまだ活気のあった頃。その中でもダンス・ミュージックに勢いがあって、個人的に生演奏主体となるエイミー・ワインハウスのような音楽に関心が薄かった。
購入履歴を遡ってみたら「Pumps」「Take The Box」のシングル盤をリミックス目的で購入したくらいでオリジナルを聴くようになったのは、この映画を観て以降。

エイミー・ワインハウスの声質はハスキーで、細く小柄な体格のわりに声が太くて存在感がある。葉に衣着せぬ言動や、目尻をつり上げたように見せる黒く塗り潰したメイク、結い上げた髪(60年代に流行ったビーハイヴヘアというらしい)も相俟って、芯が強く気の強そうなイメージを持たれがちだが、精神的には脆いことがこの映画を観るとよく分かる。

本作はドキュメンタリーのため、過去映像がつなぎ合わせられているのだが、興味深いのは記録メディアが一般に普及したおかげで無名時代の映像も残されていること。おかげでプライベートでリアルなエイミーが、やり過ぎなほど映し出されている。
歌うことが好きだったエイミーが有名になることに戸惑い、ドラッグやアルコール、恋人に依存する様子が痛いほど伝わってきて、観ていて辛くなることもしばしば。
これは対象の深堀りという面では観る側からすると理解が深められるが、同時に対象のプライベートがないがしろにされているため、本人がこのような姿まで衆目にさらされることを望むのかということ。
本国イギリスでは、死後4年ほどで映画公開しているというのもかなり早いと思う。

復活したかのように見えて空虚だった

本人はトニー・ベネットなどの古いジャズが好きだと広言し、ジャズシンガーだと自己紹介している通り20代にしては歌声が老成している。
しかしトラックそのものには古臭さがなく、その当時の時代にあったソウル、R&Bの影響もあって洗練されているが、これはサラーム・レミのプロデュースによる功績が大きいのだろう。

ジャズの影響を受けた歌唱法は古くからの音楽ファンを納得させ、奇抜なルックスと時代に合ったトラックは若い世代にも受けたため、幅広い層へリーチしたことが想像され、骨太な音楽はイギリスよりも圧倒的に市場の大きい米国でも受けたことでセールスも跳ね上がったのだろう。
だからこそ、エイミーをビジネス的に利用する人たちは、本人の健康状態や意志よりも「売れること」を優先した。

デビュー・アルバムによって成功を手にしながらも、その後はドラッグとアルコール、そして恋人への依存などによって精神は不安的になり、過食症になったことまで暴き出されている。
ボロボロになっていく姿が、1940~1950年代に活躍してやはりドラッグとアルコールで身を持ち崩した多くのジャズミュージシャンたちの姿に重なるのが皮肉だ。

それでもなんとか2ndアルバムをリリースして、契約の縛りによってドラッグを断つ。憧れのトニー・ベネットからグラミーで受賞を告げられて周囲の人々と一緒になって喜ぶ様子が幸福の絶頂を想像させるが、友人のジュリエットをステージ裏へ呼び出して「ドラッグ抜きじゃ退屈なだけよ」と吐露しているのが悲しい。

それから再度ドラッグとアルコールに溺れるわけだが、セルビアでのコンサートではステージに立つもののフラフラで歌おうとしない。
なぜあんな状態でツアーに行かせたのか、ステージに立たせたのか。エイミーはいつからか周囲から歌わされていたのが想像される。

ドラッグを入手して互いに依存し合っていた恋人のブレイクや、娘の健康状態よりも金儲けや自尊心を優先させた父親。映像からはエイミーがそういう身近な人たちの金や名誉などの欲に振り回されていたように受け取れる。

長続きしなかった、身を削る創作

ドラッグとアルコールそして過食症でボロボロの私生活。売れっ子だから話題性は充分で、27歳という若さで亡くなったことは惜しい。しかしエイミーの創作手法は長続きするものではなかったのではとも思う。

身も心もボロボロになり、際どい精神状態になったら自身の内面を見つめ直して言葉を紡ぐスタイルは文字通り身を削っており、過酷な生き様を経験としてアウトプットするからこそ多くの人の共感を得られたのだと思う。

それは純粋で正直な性格で傷付き易いからこそで、許容範囲から溢れてしまえば創作どころではなく、傷付き易いということはそれだけ「死にやすい」ということでもある。
だから、積極的に死のうと思って死んだのではないけれど、医者から止められていたのにアルーコールをやめられなかったエイミーは、緩慢な自殺を選択したのではとも考えてしまう。


改めて過去曲を聴き直してみると、オリジナルよりもライブ・バージョンの方が魅力が伝わってくると思う。「Live In London (Live from Shepherd's Bush Empire, 2007)」を聴いてみたのだけど、特に素晴らしいのが「Back to Black」で、豊かな感情表現から凄みが伝わってきて、本当に歌の巧い人だったのだなと。

リミックスでは、Bugz In The Atticによる「In My Bed (Exclusive Bugz Mix) 」が好き。強めのブロークン・ビーツと、気怠げだけれども力強いエイミーのヴォーカルが素敵。

サントラも聴いてみた。ライブ曲が多く収録されているのも良いし、Antonio Pintoによる哀愁を帯びたオリジナルスコアも混ざっているから、全体を通して聴いても緩急があって飽きない。


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