水夏(ゲーム感想)_第ニ章、3人から命を狙われるヒロイン
『水夏』第二章の感想などを。第一章の感想はこちら。
第二章では主に、風間彰の住まうアパートの隣に住む上代蒼司の視点で進行する。
時間軸は彰が神社で伊月との逢瀬を重ねているのと同時進行となるが、第一章との絡みは路上でガレージセールをやっていた少女の理由と正体が分かるくらい。
以下、ネタバレを含む感想を。
非の打ち所のない上代蒼司と、天真爛漫な性格を装う白河さやか
上代蒼司の両親は蒼司の小さい頃に亡くなっており、妹の萌を実質親代わりとして育てているため、炊事洗濯や裁縫など家事全般を起用にこなす。また見たものをそのまま絵に出来る才能や、さやかが地元の少年に襲われているところを救える身体能力の高さもある。
性格としては常に冷静だが、頭が良すぎるせいか少しひねくれたところもあり、自分でも持て余しているようだ。
対してヒロインの白河さやかは、美人で蒼司の一つ上の学年だが料理に自信が無く、学年最下位と勉強は出来ない。
絵の才能は父の白河律から受け継いでおり、見たものをそのまま描く蒼司と違って「そこに存在しないもの」を描く能力に長けている。
また、目の色や瞳孔の収縮具合、頬の筋肉の動きから人の心をみぬいてしまう能力がある。そんな観察眼と父親が死を扱った気味の悪い絵を描く画家であるため、周囲の人間からは魔女のようだと疎まれている。
なので、普段は目立たないように大人しくしているさやかだが、蒼司の前では天真爛漫な性格を装い、暗さを感じさせないようにしている。
周囲に理解者が少なく孤独なさやか
さやかは幼い頃に母を失うも、父の律はその死体を目の前にして絵を描き始め、完成した絵は母の死体を養分にして咲き誇る「ひまわりの絵」であり、さやかにとってショッキングな出来事となってしまう。
それ以来、さやかは律のことを信頼しておらず、”あの男”と呼ぶようになり、最低限のコニュニケーション以外は取らないようにしている。
優れた観察眼によって周囲からも疎まれているため、孤独なさやかにとって唯一まともなコミュニケーションを取れる相手が、幼い頃に偶然出逢った蒼司だけであった。
常盤村は田舎なので人付き合いが濃密だ。互いの顔を知らない人の少ない閉じた場所で人より秀でた能力や美人である場合、よっぽどうまくやらないと村社会で周囲に馴染むことは出来ないだろう。ましてや守ってくれるはずの母は亡くなり、父の律がフォローを出来るほど社交的だとは思えないため、まんまとイジメの構造が出来てしまっている。
さやかは、蒼司と仲良くなりたいがために絵を描き始め、蒼司の前では明るい女の子のフリをする。第二章のシナリオがほぼ蒼司の視点で進行するため気付きにくいが、他に夢中になれるものや親しい人のいないさやかの抱えた闇はかなり深刻で、さやかは蒼司に依存しているともいえる。
誰がさやかを殺すのか、命を狙われているかのようにミスリードさせる展開
母親似の美しい容姿と周囲から疎まれやすい境遇のため、さやかを殺してしまうのではと思わせる人間が3人登場する。
1人目は父の白河律。死をテーマにした気味の悪い絵を描いたり、さやかへいたずらをしようと近づく少年の首へナイフへを突きつけたりと危険な変人ぶりを発揮し、人殺しの経験を仄めかす発言もする。
また、かつて妻の死体を目の前にして「ひまわりの絵」を描いたことのある律は、絵画のためなら家族であっても殺しかねない雰囲気を匂わせている。
そんな律がある時、さやかのことを「俺の作品」と言うあたりから、蒼司は律がさやかを殺すのではないかと疑うようになる。
2人目は恋人の蒼司。蒼司は律の絵の才能に心酔している。また、見たものをそのまま描く才能はあるため、律のような絵を描くために、母親似の自分を殺しかねないとさやかは考えるようになる。
3人目は名前も明かされない少年で、律に脅されたことを逆恨みをしてナイフを持ってさやかを探すようになる。
章ごとに異なるエンディングの印象
以上のように、第二章では父の律、恋人の蒼司、少年の3人によってさやかの命が狙われるかのように思わせる緊張感のある展開となっている。しかも第一章では「ヒロインは死んでいた」という後味の悪い終わり方であったため、プレイヤーは”この第二章でもきっと良くないことが起きる”と考えてしまいがちだ。
結果的に、さやかを殺そうとしていたのは少年だけであったので、ハッピーエンドとなるわけだが、第一章との対比によってこのエンディングが際立ってくる。
もしもこの第二章を最初にプレイしていたならば、「死の間際で父になろうと娘の絵を描いていた律に、さやかがやっと気付いた」という美談でしかなく、第一章のようなバッドエンドを想像していた場合の意外性が無く、平凡なシナリオととらえてしまう。そういう意味で章ごとに終え方の印象を変えたのは効果的と思われる。
長くなったので、第三章の感想は続きで。