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割と真面目なサイバー・パンクな世界観のluv wave (レビュー1)

シーズウェア制作による1998年7月31日発売のWindoes95対応ゲームで、当時はCD-ROMで2枚組だった。メーカーのシーズウェアというのは『EVE』に代表される主に92~2000年代前半のメーカーで、私は本作と『EVE』しかプレイしたことが無い。

西暦2039年9月の東京が舞台となり、ある日世界中のコンピュータが1秒間停止するという現象(XINN)が起きた後の世界。
帝室国家安全調査室特務課謀報局(以下帝諜)の暗殺専門13課所属、御子神薫はCIAの依頼によりマシー・スペクターという金髪の男の暗殺を行う。
頭と胸を撃ち抜いて殺したはずなのだが後日、帝諜から殺したはずのマシー・スペクターの暗殺指示が再度来るというストーリー。

ハイテク化の進んでいる綺麗な街と、開発から取り残されたような雑然とした街が同居する東京は二極化しており、世界観はまるでブレードランナーや攻殻機動隊のようなサイバーパンクの様相となっている。
コンピューター同士を繋ぐネットワークそのものが意味を持ち始めるという設定や、ハッキングによる諜報活動、それに伴う暗殺を行う国の機関など、インターネット回線が一般的に普及していない発売当時(日本でADSLの普及したのは2000年前後)としては先進的だったと思う。

殺した人間が蘇ってきたり、ネットワークを介したハッキングによる情報取得、覚醒剤による人格のコピーなどが近未来東京を舞台に行われるというのがユニークで、発売当時にデスクトップPCで夢中になってプレイした記憶がある。
そんな思い出の作品を2019年の年末にVM WAREへWindows2000を入れてプレイ。

誤植とバグがパッチをあてても直らない

久しぶりにプレイしてみて色々と思い出して来たのだが、最初から最後までとにかく誤植やバグが多いことに辟易する。
UIもひどくて、SAVE / LOADと街を行き来する選択肢が順番に選択することしか出来なかったり、テキストログ機能が無しであったりと、今となってはとてもプレイしづらいつくりになっている。
そんなサイアクなUIで東京の探索を繰り返して様々な人物と総当たりで会話を進めないとストーリーが進行しないから同じ会話を何度も読まされることになるのだが、エンディングが8つもあるという。

各エンディングの条件分岐もかなり難易度が高いし上記したとおり快適とは言い難い仕様のため、8つのエンディングをコンプリートするのはかなりストレスのたまる作品となってしまっている。
それでも、98年当時は先の展開が気になってなんとかエンディングまでたどり着いた際に感動があったのは記憶しており、使いづらいUIならではの達成感もあって、今となっては当時の思い出が美化されているのは否めない。

近未来の世界観とテーマはよく出来ている

今回は古い作品であるためロクな攻略サイトも残っていないため、わざわざAmazonで「攻略&設定資料集」なるものを古本で購入してプレイした。

luv_wave設定資料

ゲーム作品としての完成度は粗さが目立つが、近未来の世界観と諜報をテーマにした展開は割と真面目につくり込まれているから飽きない。
幼女ルックスなのにアリスの萌え演出が控え目だからというのもシナリオそのものへ集中できて好印象。

デジタルテイストに簡素化されたマップ画面で移動先を決めて、退廃的な近未来の秋葉原、中野、新宿などの街を移動するのはやっぱり楽しい。
公安やCIAを相手に、超ハイスペックなコンピューターを搭載した太ももむき出し少女アリスと共に諜報活動を行うというのも、美少女ゲームならではの普遍的な楽しさがある。

しかも重要なシーンではわざわざアニメーション(ただし品質は低い)が入るという演出まであり、音楽もゲームの世界観に概ね合っており全体的に作品のつくりはよく出来ていると思う。

何とか一つのエンディングまで到達出来たのだが、死んだはずの人の人格データの欠片が恋人を探してネットワーク上を彷徨っているという切ないシナリオにはそれなりに感動があった。

脳内の活動が電気信号で制御出来て、記憶を外部装置へ置けるということであるならば、ネットワークが繋がり続けている限り、意識や記憶などの人格データが自由に行き来出来るというのは可能性として無くは無いと思わせる。
作品内ではこのように人を超越した存在をネットワーク上の人格を「神」と解釈していたが、ある意味不老不死の手法のひとつとも言える。
終わりがあるからこそ人生は美しいと思っているので、不老不死なんてまっぴらだと思うのだが、死ねないことを苦痛に思わないからこそ「神」なのか。

名称未設定2

総評としては、誤植やバグのせいでUIは酷いものだったが2019年現在にプレイしても充分に楽しめた。
マイナス要素を補って余りある世界観とシナリオの作り込みがあるから、というのと「いくつになっても私がサイバーパンクの世界観を好きだから」という厨二病的な嗜好はあるだろうが、データとしてネットワーク上に残り続ける限り一人の人格に愛され続けるというのは星新一的なホラー感もありつつ、ユニークで美しいとも思うのだ。

『YU-NO』や『EVE』がリメイクされたように、本作も元の作品の世界観を壊さずに是非ともリメイクして欲しいと思う。
こんな作品をつくれるゲームクリエイターは本当に偉大だと思うのだが、たとえ名作を生み出したとしても、ゲーム自体の対応OSの互換性によって埋もれていく作品が多くあると思うと切ない。

余談だがゲームのCD-ROM内には作品の参考文献のデータがあって、列記されていたから転載しておく。
luv waveの世界観は先人の知恵があってこそだし、いつかこのあたりを自分で読んでみたいとも思う。


『HAL伝説』ディヴィッド・G・ストーク編/日暮雅道 監訳  早川書房
『FBI対CIA』マーク・リーブリング/田中昌太郎 訳  早川書房
『超巨大[宇宙文明]の真相』ミシェル・デマルケ著/ケイ・ミズモリ訳  徳間書店
『新世紀エヴァンゲリオン絵コンテ集1~5』GAINAX編  富士見書房
『平成9年版 防衛白書』防衛庁 編  大蔵省印刷局
『東京計画地図』東京計画研究会 著編  かんき出版
『SWATテクニック』毛利元貞 著  並木書房
『別冊数理科学 超弦理論―四つの力の統一に向けて―』 サイエンス社
『CIA』フリー・マントル著/新庄哲夫 訳  新潮選書
『脳―高次機能と分子機構からさぐる脳疾患』辻 省次 編  メジカルビュー社
『軍事研究』=ジャパン・ミリタリー・レビュー
『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン著/黒丸 尚 訳  早川書房
『AD.POLICE』トニー・たけざき 著  株式会社バンダイ
『インサイドTCP/IP』片山 裕 監訳  インプレス
『攻殻機動隊』士郎正宗 著  講談社
『月刊GUN』国際出版株式会社
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以下は露骨にネタバレとなっているので、これからプレイしたい人にはオススメしないが、ゲームの設定が私にとっては複雑だったので時系列に出来事を整理してみた。
また、MJPEYES OF COMUPUTERについても設定が複雑で理解しづらいので備忘としてメモを残しておく。
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▼ゲーム内の出来事を時系列で整理。
[1]
植物人間の母である京子から真由美が生まれるも、生まれつき脳が弱かった脳の命は保って一週間、早くて2時間という状態であったが、父ウェズマからCP(Celebram Program)というプログラムを脳の中に送り込まれる。神経細胞を活性化させることで、真由美は生き続けることに成功。
ただし、この時点ですでに真由美の人格は死んでいて、CPによって別人格がつくられていると言えるかもしれない。

[2]
真由美は自分のことを実験体のように扱うウェズマを憎んでいるが、ウェズマと姦通して喜んでいる母京子に嫉妬。京子を殺してウェズマに処女を捧げる。

[3]
小学校時代の真由美は、やがてCPが成長していることを自覚する。これから起こることを垣間見たり、遠くで起こったことを察知出来るようになる。この能力によって将来自分の側にいる御子神を見つけてしまう。
この人に会えば初めて人として生きられるかもしれないと、生きる目的を見つける。

[4]
真由美は、小学校の終わりに自分をレイプしようとしたクラスメイトを高台から突き落として2回目の殺人を犯す。

[5]
真由美は高校(恐らく中学ではないと思う)へ入学し、クラスメイトの御子神薫に出逢う。真由美にとっては未来予知の能力による運命の人であるため結果ありきの出会いとなる。なので、真由美から自動的で積極的に関係を深めるのだが、御子神からすると初対面であるため、なぜ真由美が自分に好意を寄せるのかという疑念がある。

[6]
真由美が自分の存在意義を高めるために、御子神以外の生徒や教師の曽根とセックスする。

[7]
ウェズマの実験に失敗して真由美は四肢を失う。将来御子神と再会出来ることを察知していることもあるが、これ以上ウェズマの実験に耐えられないと思い、御子神へ懇願して殺してもらう。

[8]
御子神はMJPを投入されて真由美に関する記憶を消される。さらに帝諜のエージェントとして暗殺専門の13課で大伴に鍛えられる。

【数年が経過、以下の時系列は不明】

[9]
ユリは孤児であり、才能を買ってくれたことに生きがいを見出して中国のエージェントとなり、帝諜の御子神から情報を引き出すために御子神へ接近する。御子神からするとユリは凄腕のハッカーなので、情報収集などでユリを活用する。やがて二人は付き合うことに。

[10]
ダインワイズマンがIT業界のトップ企業(デジデマ社)の社長となる。裏の顔として、アジア圏でMJPをナインヘブンとしてばらまく組織(シャドウ)のボスの顔も持っている。しかも、CIAのエージェントでもある。学生時代ユリとはチャット仲間だった。

[11]
真由美の肉体は御子神に殺されていたが、その時すでに主人公との間に子を宿しており、不完全な胎児から機械化などの補完を得てアリスが誕生。四肢以外は生身であることは特に触れられないが、あまりにもアリスと真由美が似ているので真由美の身体をそのままアリスに転用したようにも思うのだがこのあたりの描写はゲーム内に無いため詳細は不明。

[12]
米国陸軍よりアリスが13課に配属。

[13]
京子の仕業によってXINNが発生。これによって世界中のPCが1秒間停止。世界が大混乱に陥る。

【ここからがやっとゲーム本編】
[14]
CIAによるマシー・スペクターの殺害依頼がある。マシーの頭と心臓に1発づつ打ち込んで殺害。

[15]
後日、CIAから再度マシースペクターの殺害依頼。身体はブルックスという別人だが、マシー・スペクターの記憶を共有している。マシーは御子神を巻き込んで死ぬつもりでビル爆破するも御子神はアリスに助けられる。

[16]
中国のエージェントである聖香はダインがシャドウのボスだということを知っており、これをネタにダインを強請っている。このコネによって御子神をダインに引き会わせる。

[17]
ユリがデジデマ社でXINNのワクチンづくりにダインからスカウトされる。

[18]
中野のアパートで、マシーを装った男を誤って殺害。

[19]
御子神とのデート中に聖香がナインヘブンのクスリを打つ。マシースペクターのオリジナルが御子神の眼前に現れるも、CIAによって聖香ごと殺害される。

[20]
アリスがダインの放った刺客に撃たれて左腕が切断させられる。

[21]
アリスを利用したいデジデマ社が、ダインの命令によって修理中のアリスを工場から豊洲の研究所へ移動する。

[22]
XINNのワクチンテスト直前に、ユリは豊洲からアリスと共に逃亡。

[23]
ユリは逃亡してシャドウのこと、MJPのことを帝諜へ情報を漏洩。ダインは報復として、ユリを殺す命令を出してユリは死亡。

[24]
CIAは、手に負えなくなったダインの殺害依頼を帝諜の13課を通して御子神へ依頼。

[25]
アリスはXINNの発生現場をユリから聞いていたが隠していたことを御子神に伝える。御子神を銃で撃つ。

[26]
御子神はアリスを探しに空港地下のデジデマ社の研究所へ。大量のケーブルに接続されたアリスを見て四肢以外は生身であることを知る。

[27]
意識を失った御子神は真由美との記憶を思い出す。

【その他】
・MJP(Magic Jar Program)について
→記憶や人格をコピーするプログラム。ネットワークに接続している人間からその記憶、人格を取り出すことが出来る、逆に別の人間へ入れ替えることも可能。CIAは距離に囚われない人間を創造しようとした。それがMJPでありマシーであったが制御不能であった。MJPはをLSDにMJPの信号パターンの入ったL-MJPを番通りに摂取ことで完成。L-MJPのLはLiquidの略。

・EYES OF COMPUTERについて
→エンディングで交わされるアリスと京子による会話が謎過ぎる。真由美でありアリスでにある存在の人物により、何かが3つしか集まらない、京子の艦へいく、御子神へ永遠の苦しみを与えてやる、などの会話があるのだが要点がはっきりしないのと、作品の世界観を根底から覆すような内容のように思われる。
真相を知りたければすべてのエンディングを見る必要があり、手間ということもあるため、敢えて触れない。

また、作品のシナリオを担当したと思われる人物によるサイトを見つけたのでリンクを貼っておく

文章が長くなってしまったので、XINNや登場人物についての考察は続きで


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