見出し画像

カフェ・ソサエティ(感想)_皮肉の効いたラブコメだが、気楽に観られる映画

ウディ・アレン監督の2017年公開作品。主演はジェシー・アイゼンバーグで、ヒロインはクリステン・スチュワート。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』の公開記念としてウディ・アレン監督の5作品が6月に日本で特集上映予定となっており、その5作品にこの『カフェ・ソサエティ』も含まれている。

以下、映画ネタバレを含む感想。

カフェソサエティ_17

<ストーリー>
もっと刺激的で、胸のときめく人生を送りたい。
漠然とそんな願望を抱いたニューヨークの平凡な青年ボビーがハリウッドを訪れる。
時は1930年代、この華やかなりし映画の都には、全米から明日の成功をめざす人々が集まり、熱気に満ちていた。
映画業界の大物エージェントとして財を築いた叔父フィルのもとで働き始めたボビーは、彼の秘書ヴェロニカ"愛称ヴォニー"の美しさに心を奪われる。
ひょんな幸運にも恵まれてヴォニーと親密になったボビーは、彼女との結婚を思い描くが、うかつにも彼はまったく気づいていなかった。
ヴォニーには密かに交際中の別の男性がいたことに……。

両天秤にかけて、成功者を選択するヴォニー

ボビーはブロンクス生まれで宝石職人の父親の仕事を手伝っていたが、ハリウッドに夢見て叔父のフィル・スターンのもとへやってくる。フィルは映画業界でやり手のエージェントで、ボビーはフィルのもとで雑用を任されることになり、日々業界人の集うパーティへ同席するようになる。

カフェソサエティ_04

そうしてボビーはフィルの美しい秘書ヴォニーに一目惚れをするも、ヴォニーにはすでに彼氏がいた。しかもその相手が叔父のフィルで、ボビーは知らずにフィルの離婚相談にのったりもする。
結局フィルは迷った末に妻カレンとの生活を選んでヴォニーとの不倫は終わるが、その間にボビーとヴォニーが付き合うようになる。しかし、一年を過ぎた頃にフィルはやはりヴォニーのことが忘れられずにカレンと別れてヴォニーとヨリを戻そうとする。
ここでヴォニーは、かつての恋人で頼れる権力者のフィルと、現在の恋人で純真な若者のボビーを天秤にかけるわけだが、ヴォニーは(案外あっさりと)フィルを選択することになり、傷心のボビーは故郷のニューヨークへ帰ることになる。

別れたのに、未練のあるボビー

カフェソサエティ_07

帰郷したボビーは兄ベンの経営するナイトクラブ「カフェ・ソサエティ」で支配人を務めるようになり、クラブは業界人や政治家、それらを目当てに近づく美人たちで名を上げるようになる。また、社交性のあるボビーは支配人の仕事がハマり役でクラブに無くてはならない存在となる。
やがて、ボビーはクラブの客に紹介されたバツイチの美女ヴェロニカと結婚。子供も産まれて安定的な生活を手にしたかのように思えたタイミングで、フィルがかつての恋人ヴォニーを連れてクラブへやってくるのだ。

素朴な女性だったヴォニーはかつて、豪邸に住むハリウッドスター達に対して、「スターは哀れよ、見栄を張らきゃならない」と贅沢な生活を否定するようなことを言っていたのに、資産家のフィルと結婚したら、まんまと自分も着飾って同じように染まっている。ビリーはそんなヴォニーを「昔の君を思うと、悲しくて笑いが出るよ」と失望したようなセリフを吐くが、これはかつて自分ではなくフィルを選択したヴォニーに対する当てつけであろう。

画像5

その証拠にヴォニーのニューヨーク滞在中、二人はかつてのようにデートを重ねるようになり、やがて恋愛感情がよみがえってしまう。二人はお互いの伴侶の目を盗んで逢瀬を重ねることになり、ヴォニーがハリウッドへ帰ってしまっても、ビリーは仕事でハリウッドへ行けばヴォニーへ会いに行くようになる。
そうして、年末のカウントダウンパーティーで二人はそれぞれの場所で、それぞれの仲間とパーティ会場にいるのだが、心ここにあらずといった目で、遠く離れたお互いのことを意識するシーンでエンディング。これから二人の行方がどうなるのか全く読めない中途半端な終わり方になっている。
しかしたとえ、ボビーとヴォニーの関係が続いたとして、恋をしているうちは幸せだが、お互いに伴侶があってのことなので別れて再婚するとなると、明るい未来は想像しづらいが。

カフェソサエティ_18

ラブストーリーを小洒落たコメディにまとめるウディ・アレン

劇中、舞台がハリウッドからニューヨークへ変わったり、兄ボビーや姉ローズのエピソードに度々場面が切り替わる。その際、解説コメントが差し込まれて強引に結果報告といった体で話しが展開するため、映画というより舞台を観ているようでせわしないが、そのおかげであまり物事が深刻になりすぎないため、暗いシーンであっても気楽な気持ちで観ていられる。
それはギャングである兄ベンのシーンが顕著で、ベンは何人もの気に食わない人間を"頼み込む"や"話し合い"と称して殺してしまうのだが、スピード感のあるアッサリした進行なので、悲壮感は無くむしろギャグとして受け止められる。あまつさえ、死刑宣告されたベンはユダヤ教には来世が無いと刑務所内でキリスト教へ改宗するというオチまでついている。

カフェソサエティ_13

日本版のチラシのコピーには「ひとりの男とふたりのヴェロニカ」とあるが、結婚した方のヴェロニカの登場シーンはほとんどない。実際にはかつて結婚寸前までいったボビーとヴォニーの悲恋の物語なのだがしかし、劇中に流れる明るく軽やかなジャズであったり先述した通り強引な場面展開によって、ウディ・アレンから「人生ってこんなものだろう」とままならない人生を軽く笑い飛ばされているかのような作品となっており、悲しさはなくてむしろ喜劇といった印象の映画だ。
-----------------------
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は#MeToo運動の煽りを受けてアメリカでは上映されていないというので、日本との扱いが随分と違うなと。もちろんウディ・アレンや#MeTooの日本での認知度の違いもあるだろうが、セクハラに対する意識の違いが国ごとに現れているともいえるかもしれない。

また、ヒロインのクリステン・スチュワートのルックスについて。この人とても綺麗な方ですが、(キーラ・ナイトレイやエマ・ワトソンも同様に)受け口の顎がとがっています。
欧米人の考える美人の定義って日本人の感覚と少し異なっているなと考えていて、こういう顔の造形の女性から自分は意志の強さを感じる。
だけど、日本での美人って意志の強さよりも可愛らしさを求められる割合が多いという印象がある。これってつまり、日本人男性が女性に対して求める女性像であるからなのかもしれなくて、#MeToo運動が日本でそんなに話題にならないのもそういうことが影響しているというのは、考えすぎですかね。

カフェ・ソサエティ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?