マッドチェスター(感想)_1990年前後のUKインディーダンス
夏に聴くと気怠さが増幅する約30年ほど前に終焉したムーブメント、”マッドチェスター”関連のシングル/アルバムについて感想などを書いてみる。
”マッドチェスター”は、80年代後半~90年頃にシカゴで生まれたハウス・ミュージックの影響を受けており、ケミカル系ドラッグのMDMA(通称:エクスタシー)と併用されて、イギリスのマンチェスターを中心にして盛り上がったムーブメント。
マッドチェスターという用語は、クラブ「ハシエンダ」の創始者の一人であるトニー・ウィルソンによって造られたと言われており、音楽的にはインディーズのロック・バンドがダンスビート、サイケなギターサウンド、60年代に影響を受けた楽曲となる。
Elephant Stone/The Stone Roses
88年10月リリースのシングルで、レーベルは後にバンドと揉めることになるSilvertoneRecordsから。
12" versionがオススメで、5分弱の曲なのに前半1分30秒ほど続くノリの良いイントロからして気分が昂揚するギターポップの名曲。ベースラインの旋律が目立っているのはPeter Hookプロデュースだからか。
1stアルバムに収録されていなかった(後に追加収録された)ため、コンピ盤の『Turn Into Stone』(92年)で初めて聴いたのだが、未だにすごく好きな1曲。
The Stone Roses/The Stone Roses
1989年5月リリースの1stアルバムは、感傷的だけど静かな高揚感も与えてくれる。バランスが良くて飽きのこない名盤。プロデューサーはJohn Leckie。
ワーナー・パイオニアから販売された日本盤を購入したのだが、価格が¥3,000と高額だった。帯では「石と薔薇」と名付けられていたが、この呼び方をしている人を見たことがない。
この1stアルバム発表前後の、The Stone Rosesのシングルは全部素晴らしい。
Fools Gold/The Stone Roses
1989年11月リリース。初のUKチャートヒットシングルで8位。
James Brown「Funky Drummer」をサンプリングした、ネチっこくグルーヴ感のあるビートに、怪しいベースラインと感情を抑えて淡々と歌い上げるヴォーカル。音数は少ないのだが、身体全体へ訴えかけてくるような、クセになる陶酔感があるため、いつまでも聴いていたくなるような気持ちになれる。長さが9:53ある12"versionを聴きたい。
このシングルも発表当時、1stアルバムには未収録だった。
Madchester Rave On (Remixes)/Happy Mondays
1989年リリースのリミックス曲を収録したシングル。
Andrew Weatherall、Paul Oakenfoldがミックスした、「Hallelujah (Club Mix)」の出来が素晴らしい。
繰り返される甲高いハレルヤのサンプリングと、硬いピアノのアルペジオ、遅めのテンポでタイトな4つ打ちによるグルーヴ感。
2020年にEwan Pearsonもリミックスしているが、ほとんど印象は変わらない。
一緒に収録されているPaul Oakenfold, Terry Farleyよる怪しさ溢れるミックス「Rave On (Club Mix)」も好き。
Pills n thrills and bellyaches/Happy Mondays
1990年リリースの3rdアルバム。プロデュース、ミックス、アレンジをPaul Oakenfold And Steve Osbornが手掛けており、完成した作品へのバンドメンバーの貢献が少ない印象だが、ダンスビートとロックの融合はかなりいい感じ。
力の抜けたShaun Ryderのヴォーカルは好みが分かれるそうだが、バンドサウンドで怪しくウネるグルーヴ感はかなりユニーク。
シングルカットされた「Kinky Afro」「Step On」なども良いが、ゆったりと気怠く「Harmony」で締めるアルバムトータルの流れが心地よい。
シーンの過渡期という意味では、Martin Hannettプロデュースによる2ndアルバム『Bummed』の方が重要なのかもしれないが、飽きてしまったのか今聴くと少し退屈に感じる。
This Is How It Feels/Inspiral Carpets
1990年3月リリース、1stアルバムからのシングル・カットでUKシングルチャート14位。
Inspiral Carpetsに対する日本の音楽雑誌での扱いは、The Stone Roses、Happy Mondaysとまとめて”マンチェ御三家”の3番目で紹介されていた。
Clint Boonのオルガンが特徴的なバンドで楽曲の勢いはあるが、粗削りなアルバムの出来はそんなに良くないので、何でも3つにまとめるのは良くない。
同じ頃リリースされた「Joe」もGraham Masseyプロデュースだけどイマイチ。このバンドはデビューするタイミングに恵まれていたと思う。
ただし、92年にリリースされた3rdアルバム『Revenge of the Goldfish』は良かった。
Some Friendly/The Charlatans
1990年リリース、現在でも解散せずに続いている稀有なバンドのデビュー・アルバムは全英アルバムチャート1位。
拙さはあるが適度なグルーヴ感とポップな楽曲はやっぱり聴きやすい。
バンドの個性ともいうべきオルガンを弾いていたRob Collinsが96年に亡くなったのは残念だった。大分落ち着いた曲が多くなったが、2017年発表13枚目のアルバム『Different Days』も良かった。
Fine time/New Order
1988年11月リリース。UKシングル・チャート11位。
イアン・カーティスの遺族バンドによるイケイケアッパーな1曲。Peter Savilleデザインによる散りばめられたE(エクスタシー)のカバーデザインの表現が露骨。
この曲やアルバム『Technique』あたりから、嗜好がロックからテクノへ徐々にシフトしていった人が多かったように思う。
Quadrastate/808State
レコード屋の店員と客の3人組ではじまった808Stateによる、1989年2月リリースのEP。全部でいくつバージョンがあるのか把握できない「Pacific」だけども、やはりこのEPに収録されているオリジナルが一番好き。鳥のさえずりとサックスが耳に残って離れない。
このEPは古い作品であるため、音の質感が機材から無加工でそのまま出しているようなプリミティブなテクノだけど、雑多なアイデアが満載の佳曲が多くて好き。アシッド・ハウスな『New Build』も良かった。
Spartacus/The Farm
83年結成で出身はリヴァプールだけども、ムーブメントに便乗した1stアルバムは1991年の3月のリリース。
他のインディーバンドよりもファンク要素の強いのが特徴的で意外にかっこいい。シングルカットされた「Hearts & Mind」」「Groovy Train」「All Together Now」も良いが、アルバムトータルの完成度も高い。
このカバーデザインすごく目立つのだが、どれがバンド名で、アルバムタイトルなのかが分かりにくいと思う。
2ndアルバム『Love See No Colour』(92年)も持っていたが、ぼんやりした印象だったのでこちらは中古屋へ売ってしまった。
Take 5/Northside
91年リリースのシングル。キラキラしたギターのリフにグッとくるし、パーカッションが絡むダンサンブルなイントロを聴くと幸せな気持ちになれる。レーベルはFactoryから。
Can You Dig It?/The Mock Turtles
1991年リリースのシングルは、UKチャート18位。
ダンスビートに美しいメロディー、少し憂いのある歌い方はThe Stone Rosesにそっくりだけどこれは名曲。この曲もギターサウンドがキラキラしている。Fatboy Slimによるリミックスも存在するけどほぼ原曲そのまま。
Strawberry Fields Forever/Candy Flip
1990年リリースのシングルはダンスビート以外はThe Beatlesの原曲に忠実なカバーになっている。二人組男性デュオのエレクトリックポップ、優しく歌い上げるスタイルはPet Shop Boysに近い。
ムーブメントに乗っかって出現してきたバンドは、シングル・カットされた曲以外はクオリティが低かったりしたものだが、Candy Flipはアルバム『Madstock...The Continuing Adventures Of Bubblecar Fish』もそこそこ良かった。古い録音のせいか音がこもっているのが残念。
ユニット名は、E(エクスタシー)とLSDを同時に摂取することを表す俗語「candyflipping」にちなんでいる。
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当時マッドチェスターについて、私の情報ソースは日本の音楽雑誌のみで、いくつかの雑誌で紹介されているレビューを頼りにマッドチェスター(マンチェスター・ブームと紹介されていたように思う)でひとくくりにされるCDを買い漁っていた。
イギリスで流行っているから、と何枚かCDを購入するも「なんでこんなのが売れるのか」と思ったもので、クラブでドラッグと併用して盛り上がっている音楽を日本の畳の部屋でラジカセから流れる音を聴いたところで、どれだけその魅力がその伝わっていたのか記憶にない。
World Of Twist、Flowered Up、The Soup Dragons、Paris Angels、The High、Ocean Colour Scene、James、blurなどがひとまとめにされて紹介されており、いくつかは購入したがあまり聴かなくなってほとんど売ってしまった。メジャーレーベルの楽曲と違って、明らかにアレンジや演奏が劣っているし歌や録音技術もヘロヘロなものが多かったのも事実。だけど、アイデアは優れたモノがあったと思うし、その後のブリット・ポップブームへ影響はあったと思う。
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