様々なプロジェクトでリリースし続けるRoger Joseph Manning Jr.(感想)2006-2021年
様々なジャンルのアーティストと器用に関わっているRoger Joseph Manning Jr.。
以下、彼が中心になってリリースしてきた作品で、2006年以降にリリースされたアルバムを中心とした感想などを。
1990-2005年のリリース作品についての感想はこちら。
Solid State Warrior/Roger Joseph Manning Jr.
2006年リリースのRoger Joseph Manning Jr.による初のソロ・アルバム。
数多のアーティストからの影響を受けたカラフルな楽曲、キャッチーな美メロ、ダイナミックな展開はJellyfishを彷彿とさせる傑作。
緻密にいろんな音を放り込んでつくり込まれた楽曲は、優しい音色のため重たくなくることはなく軽快で、長く聴いていても疲れない。メロディーが美しいから飽きないしそのなかでもミドル・テンポで華麗に歌い上げる「Wish It Would Rain」が秀逸。ギターサウンドが特徴的で高揚感のある「Creeple People」も好き。
経緯は不明だがこのソロアルバムには、3曲を入れ替えた『The Land of Pure Imagination』として、再リリースされている。
TV Eyes/TV Eyes
2006年リリースのTV Eyes名義での唯一のアルバム。
TV Eyesは、元JellyfishのRoger Joseph Manning Jr.、Jason Falknerに、Brian Reitzellの3人によるユニット。
シンセベースやダンスっぽいドラムパターンへの音の変化は、次のソロ・プロジェクトであるMalibuへの途上段階という印象。
リズムがダンスビートっぽい曲もあるが、ギターサウンドがロックテイストを残したエレクトロ・ポップになっていて、JellyfishやThe Moog Cookbookとも異なっている。
こういうの好きだし、「She's A Study」など、よい曲もあるがフレーズをループさせるのにダンスミュージックになりきれていないせいか、アルバム全体を通して聴くと少し単調に感じてしまうのが残念。
Robo-Sapiens/Malibu
Roger Joseph Manning Jr.のソロ2作目はMalibu名義で、アルバムリリースは2007年。(残念ながらSpotifyに無い)
Roger作品にしては珍しくダンスビートを多用した楽曲となっている。
シンセベースのアルペジオやヴォコーダーなどを多用し、80sを意識した音づくりはGiorgio Moroderのイメージに近い。日本版のライナーノーツにRogerは、DJ Shadow、Felix Da Housecat、Stuart Price、Mirwaisをリスペクトともあって、なるほどと思わせる音づくりで珍しく洗練された楽曲となっている。
ユニット名のMalibuはサンタモニカの西にある街から付けられていて、マリブは日焼けしたセレブの集まる超高級住宅街とのこと。フルータリアンで質素な食生活を好み、色白なRogerと対極なことを皮肉ってBeckが名付けた。
Roger Joseph Manning Jr.の関わった楽曲って、優れたメロディのポップソングをつくるけど、どことB級感が漂うチープなものが多い。本作はダンスビートになったことで楽曲が洗練されてはいるが、反復するビートが楽曲としては単調になってもいるため、これまでのファンからすると好みは分かれると思う。
しかし、TV EYESよりも聴きやすいし、「Please Don't Go 」のように、いつものポップセンスが見え隠れする楽曲も多く私は好き。これも名盤だと考えている。
また、Malibu名義では、Fantastic Plastic Machine、Felix Da Housecat、Beckなどのリミックスも手掛けている。どの曲もチープなエレクトロになっていて楽しげなリミックスに仕上がっているが、特に気に入っている2曲を以下に紹介する。
Don't Be Light (Malibu Remix)/AIR
AIRのリミックスは2002年のリリース。オリジナルからテンポを落としてビートが強調されて、ループするシンセフレーズと、加工されたヴォーカルがとぼけた感じの曲に仕上がっている。
The Pink Panther Theme (Malibu Remix)/Henry Mancini
ピンク・パンサー生誕40周年企画で2004年にリリースされた『Pink Panther's Penthouse Party』より、Malibu名義でのリミックスはブレイクビーツのダンスビートに。
過去にも『Logan's Sanctuary』のように、映画サントラのような楽曲を手掛けていたRogerだけに相性のよい好ミックス。ちなみにカバーのイラストはShag。
Catnip Dynamite/Roger Joseph Manning Jr.
Roger Joseph Manning Jr.名義での2枚目のアルバムは2008年に日本盤が先行リリース。Malibu名義での楽曲とは異なり、カラフルで甘くポップなアルバムに戻っている。
様々な年代のポップスをいいとこどりして、バリエーション豊かな曲が多くて飽きさせないポップスのお手本のようなアルバム。なかでも70年代後期、重厚な音をつくっていた頃のE.L.Oを思わせる「Down In Front」の躁状態のポップさがたまらない。
恋を明るく否定して歌う「Love's Never Half As Good」もよい。
Glamping/Roger Joseph Manning Jr.
4曲入りのEPは2018年のリリースとなるため、ソロ名義としては10年振りのリリース。
すでに50歳を越した姿を見せるRoger本人のカバーは泥臭く、少しばかり不安を感じたのだが聴いてみると甘い歌声と美しいハーモニーは健在で安心。
ハーモニーの美しい優良なポップソング「Operator」もいいのだが、切ないメロディーの「Is It All A Dream?」も捨てがたい。
Threesome Vol. 1/The Lickerish Quartet
Rogerが久しぶりにEric Dover、Tim Smithと組んだユニットThe Lickerish Quartetによる2020リリースの4曲入りEP。
元Jellyfishのメンバーと組んだだけあって、曲のつくりはそれに近い。変化がないと言ったらそれまでだが、昔ながらの音を期待している人の期待は裏切らない。
4曲とも内容は充実していて、とくに「Bluebird's Blues」の音の抜き差しによるメリハリが懐かしい気持ちにもさせられる。「Lighthouse Spaceship」の透明感もクセになる。
Threesome Vol. 2 (2021)/The Lickerish Quartet
The Lickerish Quartet名義での2021年リリースも4曲入EP。ギターサウンドが賑やかで、展開がダイナミックな「Snollygoster Goon」がよい。
しかしここ2作品とも、何やら不穏なカバーデザインになっているのはどういうことか。
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ざっと、Roger Joseph Manning Jr.が中心にリリースしてきたアルバムを中心に振り返ってみたが、他にもBeckのアルバムやツアーにも同行していていたり、Cheap Trick、Morrisseyなど数多のアーティストのアルバムにも参加していたりと器用さを感じさせる。
Malibuでの活動がダンスビートで異色だが、ジャンルで括るとロック/ポップスの作品が多い。シンセサウンドはチープなものが多くソフィスケイティッドされていないため、どこかB級感が抜けきれないのだが一周まわってカッコいいというかそこが愛おしい。
ここ最近の作品が4曲入りEPにまとめられているのは、ストリーミングサービスで音楽が聴かれる時代になり、アルバムを通して聴かれることは少なくなっているからかもしれないが、やっぱりアルバムで聴きたいなあ。