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Electric Light Orchestra(感想)1990-2019年_長年のファンにとって期待通りの音楽
ELOおよびJef Lynneがソロでリリースしてきた1990-2019年までのアルバムの感想などを。
1986年までアルバムについての感想はこちら。
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Armchair Theatre/Jeff Lynne
[1990年](全英24位/全米83位)
カバー写真通りかなり肩の力の抜けた作品になっていて、『Balance of Power』の頃と比べると生音の比率が大幅に増えて、楽曲はさらにシンプルでオールディーズっぽい曲なども。
多くの楽器をひとりでこなしており、ノリのいいリズム・パターンやドラムの音色などの質感がとても良く、90年代以降のJeff Lynne作品ならではの音が確立されている。
耳あたりの良い優しい音や、シンプルだけれども空間を感じさせる録音技術はさすがでリラックスしながらも、ひとつひとつの音へのこだわりを模索しながらつくられていると思われる1枚。
名盤かと問われたら疑問だけれども、「Every Little Thing」「Lift Me Up」「What Would It Take」など好きな曲もあってたまに聴きたくなる1枚。
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Zoom
[2001年] (全英34位/全米94位)
前作から15年振りのELO名義でのリリース。Jeff Lynneは他アーティストのプロデュース業もあったので、てっきりもうELOとしては活動しないものだとばかり思っていたので、とても嬉しかったのを覚えている。
ギターがメインとはいえ、ストリングスも聴けて楽曲のイメージは70年後期のELOにも近い。
とはいえ、一部の曲でRichard Tandyが参加しているも、ひとりで多くの楽器を担当していたり、実質Jeff Lynneのソロ作品といった感じ。
1曲目の「Alright」から、コーラスとドラマチックな構成がこれぞELOと言うべきトラックで、昔から聴いてきた者としてはかなり嬉しいのだが、最期まで1枚を通して聴くことがあまり無いのは、私の好みの方が変わったからなのか。
全体的に音圧が高いのと、音の密度の濃さから疲れるというのはあるかもしれない。
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Long Wave/Jeff Lynne
[2012年] (全米133位)
久しぶりのソロ名義での作品はカバーアルバムとなっていて、円熟の域に達したJeff Lynneによるまったりとしたポップスが聴ける。
他人の曲なんだけれども、多くのアーティストのプロデュースを手掛けてきたJeff Lynneだけに違和感無く消化されているというか、アレンジが良くてどの曲もクオリティが高い。
昼下がりの午後などに、のんびりと聴き流したい1枚。
1990年以降にリリースされた作品のなかで、かなりクオリティが高いアルバムなので、Jeff Lynneを知らない人でも楽しめる1枚だと思う。
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Alone In The Universe/Jeff Lynne's ELO
[2015年] (全英4位)
名義にELOとは入っていてRichard Tandyも参加してはいるが、Jeff Lynne's ELOとなっているので、ほぼソロ作品と思われる1枚。
『Zoom』からは14年ものブランクがあって、郷愁を誘う「When I Was a Boy」には引き込まれるし、哀愁のある「Dirty to the Bone」も美メロ。
まったりとした曲が多くどこか懐かしい曲が多い印象のため、既存ファン向けの1枚となっている。
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From Out of Nowhere/Jeff Lynne's ELO
[2019年] (全英1位)
耳馴染みの良いポップなメロディー、そして71歳にしてはハリのあるヴォーカル。
相変わらず唯一無二のサウンドを聴かせてくれて流石なのだが、前作に続き完全に既存ファン向けの1枚で、まったりとして曲が多いが、70年代ELOの音楽性の変化を思うと、もっと既存ファンを裏切るような新しい領域を聴きたいという気持ちも少しある。
かつてほどスペイシーな音は鳴っていないはずだが、相変わらずカバーデザインには宇宙船が使われているのは、もうトレードマークとして使うしか無いのだろうな。
『Armchair Theatre』以降の作品はだいぶ肩の力が抜けたというか、作品としての品質は一定のクオリティを保っているものの、既存ファン向けの音楽性であって、あまり実験的なことをしなくなった印象を受ける。
ELO時代も含めて発表された数多の楽曲はJeff Lynneプロデュースのもとつくり上げられていて、1990年にリリースされた3枚組のベスト盤、『Afterglow』の解説にはこうある
楽器のパートをすべて録り終えるまで、僕は絶対にヴォーカルを歌わなかった。バッキング・トラックを練習すると、スタジオに入ってそれを数日で楽器を入れる。次に僕がギターなり何なりをプレイして、バッキング・ボーカルや合唱を録る
メロディは頭の中にあるんだが、僕は誰にもそれを教えないんだ。みんなにとっては、それはいつも謎だった。オーケストラや合唱、グループの演奏やらなんやらで、10トラック録ったとする。ビッグなサウンドができあがる-でも歌が入っていない。僕は最後の最後まで歌詞をとっておいた。今考えるとおかしなやり方だね。いろいろな人たちと仕事をしてきたけど、ボーカルがないというのでいつもびっくりされたよ。ラフ・ボーカルさえないんだ。歌詞は録音の前日に書くか、1週間歌詞を書くためだけに詰めて、そのままスタジオに入って歌うかのどっちだった。
いつの頃のインタビューなのかは判明しないが、いずれにせよ曲づくりはバンドメンバーと一緒につくりあげるというより、Jeff Lynneの作業比率が大部分を占められているという印象。
ELOの魅力を考えてみたとき、Jeff Lynneの柔らかくクリアな声質やメロディーラインの美しさというのは勿論あるのだが、年代順にアルバムを聴き直してみると、ELO時代の音楽性の変化が興味深い。
70年代初頭にストリングスを多用したプログレ・ロックとしてスタートして、70年代中頃にはロックからヒット曲狙いのポップスになっていき、80年代にはストリングスがシンセサイザーに置き換わるというのはなかなかの変化量で、年代ごとに異なる切り口が聴けるというのはそれだけでも楽しい。