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マンハッタン・レクイエム(感想)_泥臭い捜査をする、渋いミステリーADV

『マンハッタン・レクイエム』は刑事J.B.ハロルドが主人公のミステリーADV(アドベンチャーゲーム)シリーズの2作目。
1987年にPC-88/PC-98などを対応機種として発売され、その後メーカーを変えながらもニンテンドーDS、iOS、Andoroidなどへ移植、さらに2017年にはNintendo Switchにも移植されている。
ヴィジュアル・システムは刷新されているが、ストーリーはほぼ変更されずに30年以上前のゲームがリメイクされ続けているというのはなかなかスゴイことでそれなりにファンがいるのだと思われる。
以下、ネタバレを含む感想などを。

あまり目にしなくなったハードボイルドな世界観

主人公のJ.B.ハロルド(以下J.B)は、アメリカ中東部の田舎町リバティタウン出身の刑事。J.B宛に”Club M&M”と印字されたカードを送ってきたサラ・J・シールズがアパートの窓から落ちて死んだことを知って、NYへやってくるところから物語がはじまる。
サラはかつてリバティタウンのパブでピアニストをしていたが、3ヶ月ほど前からダウンタウンのアパートに住んでおり、その自室から落ちたのだという。

J.Bの性格は寡黙で忍耐強くて頑固。ひとりで行動することが多く、他者には決して媚びない。静かなバーでラッキーストライクをくゆらせ、独りグラスをかたむけるのが日課で、チャーリー・パーカーの「オーニソロジー」を好む。
刑事としては解決した事件は数しれないほど優秀で、詳しい経歴は不明だが亡くなった父親も刑事だったとのこと。

これらの設定から想像されるJ.Bという人物について、”自己陶酔し過ぎだろ?”という印象を受けるが、ゲーム中にJ.Bは言葉を発しないので特段気にはならない。むしろ見ず知らずの人々から次々に事件の手掛かりとなる情報を引き出すJ.Bの技術が凄すぎる。
作品全体の雰囲気は、制作サイドが意図しているユーモアの要素は皆無で、王道のハードボイルド刑事ものを徹底した世界観からは実直さが伝わってくる。

マンハッタンの表/裏の世界を表現

1987年当時、オリジナル版を制作した「リバーヒルソフト」から同じ頃に発売されていたADVでは、貿易で成り上がった影谷家の没落を扱った『琥珀色の遺言』(1988年)と、洋上の豪華客船が舞台の『黄金の羅針盤』(1990年)がある。
どちらもの作品も上流階級の人々が多く登場することもあって、格調高い雰囲気の漂う作品だったが、この『マンハッタン・レクイエム』ではマンハッタンの持つ表裏、両方の顔が見せる喧騒と、そこに住まう欲深い人々との出会いによって、猥雑だが渋い世界観を楽しめる。

ゲーム全体の渋さを引き立てるのは、J.Bの元先輩刑事にして現在は保険調査員をしているジャドにも原因があって、いかにもヤニとアルコールの臭いが漂わせながら「靴のキレイな刑事にロクなヤツはいない」と言い出しそうな昔ながらのオヤジだ。
ジャドとは事件解決のために頻繁に絡む必要があるのだが、自分ではほとんど何もせずにJ.Bに捜査を丸投げしておきながら、なぜかJ.Bのことを相棒と呼ぶ。

コマンド総当りシステムのため、フラグを立ててジャドの同意を得てからでないと容疑者を追い込むことが出来ないのが辛いところで、残念ながら本当の意味での推理要素は少ないと思われ、そもそもジャドに相棒としての物足りなさも感じるも仕方が無い。

捜査は殺されたサラ・Jの周辺人物への聞き込みからはじまるのだが、関係者が多く、数多の登場人物を覚えるのがまず一苦労。
その上サラ・Jだけでなく、サラ・Oの殺人事件まで並行して捜査をすることになり、聞き込みしている相手が”とちらのサラ”の関係者であったのかが分からなくなってくるほど。

グラフィックの粗さを補完する資料

物語としては、NY市警の捜査があまりにもグダグダなことや、同性のサラが死んだ原因の関係が薄かったりと、少しばかり設定に残念な点はあるのだが、謎が解けるまでの期待値は高くミステリーとしての雰囲気は存分に楽しめた。

また、殺人の動機を保険金狙いと思わせ、素行の悪い容疑者をミスリードさせたりと先の気になる展開になっているのもよかった。
煙草臭い渋いオジサマのJ.Bになり切って、殺人犯を想像しながら徐々に謎を解き明かし、グリニッジビレッジやウォール街など、マンハッタンを縦横に歩き回る気分を味わえるのも楽しい。

また、これは好みの問題だが今どきのキレイなグラフィックにリメイクされた移植作品より、粗いドット絵のPC-98版の方が、ハードボイルドな雰囲気が色濃く伝わってくるように思われる。
リバーヒルソフト時代のマニュアルにはマップや人物相関図も付随していたので、そういう直に手に取れる資料を利用し、脳内でイメージを補完しながらプレイした方が没入感を味わえると思うのだ。

付随資料のデザイン性が高いのも良かった

本作の時代設定では携帯電話、DNA鑑定、指紋認証、ましてや防犯カメラによる解析も行われないため、必然的に刑事が足を棒にして歩き回って現場検証や、関係者への聞き込みが主な捜査手段となる。
そうやって出会う人々は、初対面で幸せそうな外面を見せるも、夢を叶えて成功を掴むために他人を蹴落とし、プレッシャーに押し潰されることを恐れてクスリに手を出すなど、”成功するために払った代償””人間の持つ弱さ”を見せつけてくる。

だからこそ、プレイしながらどこか共感出来るところがあるし、それこそが本作の普遍的な魅力になっていて、30年経ってもリメイクされ続けているの理由はそういうことなのかもしれない。


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