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デイヴィッド・ホックニー展(感想)_自然の風景を時代ごとに様々な手法で

東京都現代美術館にて2023年7月15日から開催されていた『デイヴィッド・ホックニー展』へ行ってきたので、いくつか印象に残った作品についての感想などを。
描かれているのは人物または森などの自然の風景なのだが、ポップな色合いやメリハリのある輪郭はポジティブな印象で元気を貰えるというか親しみやすさがある。


(額に入った)花を見る

壁の手前部分、つまり床の上に存在する花瓶や椅子さらには座っているデイヴィッド・ホックニー本人は緻密で写実的なのに、壁に飾られた20点の花は絵画と分かる質感に描き分けられている。
それだけでも奇妙なのに、鑑賞者は美術館にいるのに椅子に座って鑑賞しているホックニーがいるせいで(しかも二人)、現実と作品の境界が曖昧になってくる。作品の幅が5m以上あってサイズ的にも、現実の延長線にあるような奥行きを感じさせる。
色合いは壁の落ち着きのある沈んだ青と、明るい木目の床、額縁やテーブルに使用されているベージュとの対比が美しく、花が色とりどりなのも引き立つ。


春の到来 イースト・オークシャー、ウォルゲート 2011年

エスカレーターで1Fへ降りてくると、臙脂色に塗られた四方の壁に囲まれた空間には10数点ほどの絵画が展示されていて、一際目立つのが左右10m以上ありそうな横に長い絵。
縦にすっと伸びた木々の色は紫や肌色など様々で色鮮やか。中心から放射状に舞う葉がアクセントになっていて森そのもが息をしているかのようにリズム感があって、生い茂った草花も生命力に溢れていて力強い。
白文字の作品タイトルが大きくて、個性的な書体なこともあって主張し過ぎなのが気になったけど、これも作品の一部なのだろうか。

他3面の壁に飾られた絵画は、同じ場所で晩冬~初夏にかけて描かれた絵画も展示されており、部屋全体が異質な森にいるかのような空間となっている。


四季、ウォルドゲートの木々

9分割された画面に木々の生い茂った道をゆっくりと進むだけの動画が、春夏秋冬それぞれの季節で映されている作品。
鑑賞者は画面に囲まれるようにして真ん中に立ち、4方向それぞれに映る動画を鑑賞することになるのだが、季節ごとの森の表情をのんびりと眺めることになる。
太陽光が雪に反射したり、雪の白と木の枝の濃い色の対比が美しい冬の景色が見ていて飽きない。


スプリンクラー

ミニマムな直線だけで構成された家であったり、スプリンクラーの水も不自然なほどV字型にデフォルメされていて、全体的に人工的な印象。
芝生の緑の補色となる赤い太枠のインパクトも強くて場面を切り取って絵画と現実に明確な境界線があることを強調している。
機械的でアイコニックな印象の絵画で、手描きならではの線の揺らぎにだけ体温を感じられるような無機質な印象を受ける。



リトグラフの水

冷たそうな水がいっぱいに貯まった水深の深いプールと、プールサイドから突き出した飛び込み台が描かれたシンプルな1枚で、色も緑と青の2色の濃淡だけで表現されている。
葉っぱのようなものが風に吹かれていて、水の揺らぎも感じられるから涼しげでいかにも夏っぽい。
飛び込み台やプールサイドやそれに続く通路が白く何も塗られていないからいい感じに力の抜けた1枚で結構好き。



ノルマンディーの12ヶ月2020年-2021年

iPadで描かれているとのこと。長さが90mもある作品のためデジタルだからこそ手間が省けている部分もあると思われる。
確かに近寄って細部を見ると、デジタル特有の単調さは感じられるものの遠目で見る分には気にならないのと、濁りのないクリアな発色が美しいからこれはこれで好き。
牧歌的な風景の建物や木や車など、田舎の風景を描いただけの絵画なのだけど爽やかさな組み合わせの色のバランスが美しく、横に長くなることで歩きながら眺めるという鑑賞方法が新鮮。


両親

姿勢良く正面を向いている母親の実直さに対して、描かれることに関心が無いのかそれとも照れているのか。いずれにせよ父親は下を向いて本を開いていてこちらを見ようともしない。
引き出しの付いたカートの発色の良さや、母親の着ている鮮やかな青とチューチップなど色合の組み合わせが派手で、老夫婦という地味なモチーフなのにやたらとポップな印象。


ほぼ開館時間に着いたのだけど夏休みのせいか平日でも結構人が多くいたけれど展示作品数が多いから人の少ないところから見て回れた。
iPadで制作されたという作品が印象的で、いい感じに肩の力が抜けていて好印象。複雑で混沌とした自然の細かやさをデジタルならではのベタっとした塗りでざっくりと描くと均質化または単純化してしまうのだが、そういうのを86歳にもなる老人がやっているというのも面白い。
こういう単純化された風景に既視感があって、1980~90年代の解像度が粗くて同時発色数の少ないゲームを連想されてなんだか懐かしさを感じる。
図録も購入した。図録自体のサイズが小さいのは残念だけど、「ノルマンディーの12ヶ月2020年-2021年」のように、自然を描く緑色の発色が良くて嬉しい。

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